遺産には、プラスの財産だけではなく、負債なども含まれる場合があります。その遺産を相続するのかしないのかを、次の相続人が決める期間が設けられているのです。遺産の相続放棄を選択したときに、必要な書類の入手方法や書き方などを詳しく解説します。
目次
相続放棄の流れ
相続放棄すると決まったら、早速書類を揃えて手続きを開始しますが、その前に相続放棄の全体的な流れを覚えておきましょう。
相続放棄の全体的な流れ
以下に、相続放棄の流れをリスト化したのでご覧ください。
- 相続する財産や負債を調べる
- 相続放棄の熟慮期間を延長するか否かを決定
- 申述書を作成する
- 申述書を故人が最後に住んでいた住所の管轄にあたる家庭裁判所に提出
- 家庭裁判所から照会書が送られてきたら回答して提出
- 相続放棄が受理され、家庭裁判所から相続放棄受理の通知書が送付される
- 希望すれば、相続放棄受理の証明書が発行される
相続する遺産を放棄するか否かを決定するには、まず財産と負債がどのぐらいあるのかを調べる必要があります。
相続をするかしないかを決断する期間は『相続開始を知った日から3カ月間』と規定されています。
この期間を『熟慮期間』と呼び、希望すれば延長も可能です。もし、延長を希望する場合は、家庭裁判所に熟慮期間の『延長の申し立て』をします。
正式に相続放棄することを決めたら『相続放棄の申述書』に内容を記入しましょう。家庭裁判所に提出する際は、ほかにも添付書類をつける必要がありますが、詳しくはのちほど解説していきます。
なお、手数料である収入印紙800円分と郵便切手500円分程度もあわせて必要になりますので、忘れずに用意してください。郵便切手の金額は裁判所によって異なります。
申請書の提出後、すべての人に当てはまるわけではありませんが、家庭裁判所から照会書が送付されてくる場合があるので、その際は、書類に回答し再提出しましょう。
照会書の送付以外にも、問い合わせや面談、さらに詳しい資料の提出を求められる場合もあります。あらかじめ念頭においておきましょう。
裁判所の方で相続放棄の申述が受理されると『相続放棄受理通知書』が送られてきます。通知書の再発行はできませんが、希望すれば『相続放棄受理証明書』を発行してもらえます。
もし、証明書の発行を希望するならば、新たに家庭裁判所に『相続放棄受理証明申請』を行いましょう。
大まかなスケジュール表
相続放棄をすることが決まったら、やることがいろいろとありますが、財産や負債の調査が終われば、あとはさほど時間はかからないでしょう。
まずは、市役所で添付書類をそろえます。スムーズにいけば2時間ほどで完成しますので、市役所がすいている時間帯に申請すると良いでしょう。
その後、相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出し、処理がスムーズに進めばだいたい『1週間ほど』で相続放棄申述受理通知書が届くはずです。
相続放棄した方がいい場合としない方がいい場合の見分け方
相続人になると、本当に相続すべきかどうか、迷うこともあるでしょう。そこで相続放棄をした方が良いか辞めたほうが良いのかを決める目安を以下に記します。
まずは、相続放棄をした方が良い場合です。
- 借金が多い
- 遺産相続で揉めたくない
- 借金があるが、その額が把握できない
- 被相続人の事業を長男に継がせたい
やはり、多額の借金がある場合は、いくら財産があっても放棄を考えるべきでしょう。
また、借金があるのは知っていても金額が具体的にわからない場合は、将来に不安が残るので、念のため放棄することをおすすめします。
次は、相続放棄をしない(相続する)方が良い場合です。
- 子どもが配偶者に全財産を継がせようとしている
- 子どもが孫に相続させようとしている
- 負債が多いと感じ相続放棄を考えている
さきほど『借金の額が解らない場合は相続しないほうが良い』とお話ししましたが、実は、相続の方法の1つに『限定承認』と呼ばれるものがあります。
これは、借金の額が正確にわからない場合に『マイナスの遺産がプラスの遺産を越えないように相続する』方法です。
この制度を使えば、負債が財産より多かったとしても、余分な負債を負わずに済むかもしれません。
しかし、この限定承認は、承認されるまで1年以上かかる場合があったり、財産に不動産があったりすると鑑定に数十万以上かかったりすることがあります。
また、この承認に関しては『相続人全員』で行わなければならないため、1人でも反対が出ればできない方法です。
さらに、限定承認が受理された場合は『準確定申告』をするなど、いろいろと複雑な手続きが必要であるため、あまり利用されていないのが現状となっています。
ちなみに、死亡保険や遺族年金は、受取人の権利のため、相続放棄には含まれません。
また、被相続人(故人)の死亡退職金に関しては、勤めていた会社の退職金規定によって、受け取れる場合と受け取れない場合があります。
(1)相続財産調査の必要書類
相続放棄の基本的な流れがわかったところで、次は相続財産を調査するために必要な書類について解説します。
自分が相続対象かどうか調べるための手続きと必要書類
例えば「自分には兄弟がいて、相続人ではないはずなのに相続の通知がきた」ということがあります。この場合は、冷静になって『自分が本当に相続対象なのか』を調べる必要があります。
兄弟に直接聞くことができるなら、それに越したことはありません。
もし、難しいならば『自分よりも順位が上の相続人が、相続放棄したのか』を相続放棄の申述を受理した家庭裁判所に照会してみましょう。
相続放棄をしたか照会してもらうために必要な書類を以下にリストアップします。
- 相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会申請書
- 被相続人等目録
- 被相続人(故人)の住民票の除票(死亡した理由、本籍の記載があるもの)
- 被相続人(故人)の戸籍謄本
- 自分の住民票
- 自分の戸籍謄本
- 相続関係図
- 切手を貼った返信用の封筒
ここで確認がとれれば、相続放棄されたことが確実になります。確認できなければ、相続放棄されたとは言えません。
相続財産の調べ方
相続財産を調べるには、最初に『被相続人(故人)の預金通帳や郵便物』を調べます。
預金通帳は、生前のお金の流れを知るために不可欠なものであり、郵便物を手がかりにして故人と関わりがあった銀行や取引先を調べることが可能です。
また『登記済の権利書』や、固定資産税を払っていれば『不動産』を持っていたというケースもあります。
不動産を調べるには、市役所に行き
- 固定資産税をまとめている部署で『名寄帳(資産明細・課税台帳とも呼ばれています)』の書類を請求
- 1と同じ部署で『固定資産評価証明書』を発行
- 法務局に向かい『登記簿』を発行
以上のような手順をふみましょう。
預金通帳の残高を調べるには、銀行に行って『残高証明』を発行してもらいます。これは、預金がある可能性を持つ銀行すべてで行いましょう。
なお、残高証明発行は通帳やカードが無くても可能です。もし、通帳類が見つからなくても、まずは銀行に問い合わせてみましょう。
また『株式、投資信託』などが発見された場合も、やはり、証券会社または信託銀行などで残高証明を取得してください。
ほかに遺産として考えられる財産として
- 車
- 骨とう品
- 貴金属
- 家財道具
など物質的なものが考えられます。現金としての遺産が残されていなかった場合でも、すぐに遺産放棄の決定はせずに、細かく調べてみましょう。
調査の際の一般的な必要書類
被相続人(故人)と生前関わりがあった機関がわかったら、調査に必要な書類をそろえましょう。そろえる書類は以下の通りです。
- 被相続人(故人)の戸籍謄本(死亡したことが証明できるもの)
- 自分が相続人であることを証明するための戸籍謄本
- 相続財産がわかるもの(通帳など)
- 本人確認資料(免許証など)
負債の調査は早めに
相続放棄をするかどうかを決めるために考えることのできる期間は3カ月と決まっています。できるだけ早く財産や負債を調査し、相続放棄を申し立てるか、相続をするかを慎重に判断しましょう。
3カ月以内に申し立てれば、ほぼ確実に受理されますが、3カ月を超えてしまうと、どんな事情があったとしても、債権者が故人の負債の返済を迫ってくる可能性があります。
また、熟慮期間中に相続人が財産の一部または全部を処分してしまった場合には、相続放棄はできなくなるので、相続が決まるまでは安易に手をつけないのが賢明です。
(2)相続放棄の申述のための必要書類
ここからは、相続放棄のために必要な書類を解説します。必要な書類は置かれている立場によって微妙に変化するので注意しましょう。
相続放棄で必ず必要になる書類
まずは、立場や状況に関係なく、必要な書類を以下にまとめました。
- 相続放棄申述書
- 被相続人(故人)の住民票除票・または戸籍附票
- 相続放棄する人の戸籍謄本
- 収入印紙800円分
- 切手(80円切手×5枚ほど)
以上のものは、必ず用意しましょう。
各書類の入手方法は?
相続放棄の申述書は、こちらでダウンロード可能です。
被相続人(故人)の戸籍謄本は『故人の最後の本籍地がある市役所』で取得できますが、もし、遠方で行くのが難しい場合は、市役所に郵送してもらえるか問い合わせてみましょう。
相続放棄する方の戸籍謄本は、本籍がある市役所でのみ取得できるものです。今住んでいる地域に本籍を置いていない場合、最寄りの役所では取得できませんので注意しましょう。
他にも相続人の立場によって必要になる書類も
相続放棄を申述するための書類には以下のものが必要な時もあります。
- 被相続人(故人)の死亡記載のある戸籍謄本
- 被代襲者(つまり親や子)死亡記載のある戸籍謄本
- 被相続人(故人)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 配偶者または子の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人(故人)の親の死亡記載のある戸籍謄本
- 兄弟の死亡記載のある戸籍謄本
主なケース例としては
- 故人の配偶者・子が放棄する場合は1
- 孫が放棄する場合が1と2
- 故人の親が放棄する場合は3と4
- 被相続人(故人)の祖父母が放棄する場合は3・4・5
- 兄弟、甥や姪が放棄する場合は、3・4・5・6
が必要です。
書類はどう提出する?
書類は被相続人(故人)が亡くなった場所に最も近い家庭裁判所に直接持っていくか、郵送するなどの方法で提出します。
申述書の書き方
ここからは、相続放棄申述書の書き方を詳しく説明します。
相続放棄における申述書とは
相続放棄における申述書とは、相続放棄をする場合に必要な書類の1つで、放棄する人が20歳以上なのか未成年なのかによっても違ってくるため、注意しましょう。
申述書の書き方
申述書で記入が必要な項目は以下の通りです。
- 家庭裁判所の名前
- 提出日
- 申述人(相続人)の名前
- 申述人(相続人)の本籍
- 被相続人(故人)との関係
- 被相続人(故人)について
- 未成年の場合は法定代理人
- 申述の理由
相続財産の概略を記入する箇所がありますが、これは1円まできっちり正確に書かなければならないものではないので、財産と負債がある程度わかれば大丈夫です。
印鑑は、実印の必要はありませんが、どの印鑑を押したかはきちんと覚えておきましょう。
照会書の書き方
次は相続放棄の申述を家庭裁判所に申し立てた後に、裁判所の方から届く照会書について解説します。
相続放棄における照会書とは
家庭裁判所から送られる照会書は『今回の相続放棄の申述が本当に本人の意思によって行われたのか』などを知るための書類です。
申述人が今回の件についてどの程度把握しているのか、相続放棄の理由を改めて裁判所が確認します。
裁判所からはこの照会書以外に回答書も同封されているので、そちらに回答し裁判所に返信しましょう。
照会書の書き方
照会書に同封されている回答書には以下のような質問が書かれています。
- 今回の件を知っているか
- 被相続人(故人)の死亡を知ったのはいつか
- 被相続人(故人)の遺産には、どのようなものがあるのか
- 上記の財産のうち、すでに相続したものはあるのか
- 財産の存在を知ったのはいつか
- 相続放棄をする理由
- 被相続人(故人)の生前の生活について知っていることはあるか
- 被相続人(故人)との連絡状況はどの程度であったか
- 財産に関する調査をしたか
- 今回の放棄は申述人の真意によるものか
書き方は、基本的には回答書の指示に従って記入すれば良いでしょう。ただし、この質問のうち、4で『ある』と回答すると放棄できなくなる可能性が高いので注意しましょう。
また、熟慮期間の3カ月を過ぎてから申述した場合には、申述をしなかった理由も書く必要があります。
(3)相続放棄を証明するための必要書類
次は、相続放棄したことを証明するための書類について解説します。
通知書とは
相続放棄が家庭裁判所にて受理されると、家庭裁判所の方から『相続放棄申述受理通知書』が交付されます。これで相続放棄の一連の手続きは無事に終了です。
金融機関等に要求されたら証明書を発行しよう
相続放棄が無事終了しても、金融機関などから『相続放棄を確かに行った』という証明を求められる場合があります。
通知書は、あくまでも相続放棄受理手続き完了のお知らせであり、上記のように公共機関に正式に提出する場合は、証明として認められないこともあります。
その場合は、別途裁判所にて『相続放棄申述受理証明書』の発行を申請することが可能です。
通知書が送付される際に、相続放棄申述受理証明書を交付するための申請書が同封されているので、これを使えばスムーズに手続きできるでしょう。
ちなみに証明書を申請する際は相続放棄の『事件番号と受理年月日』が必要になります。
証明書は再発行可能
証明書の方は、請求をすれば何通でも発行できます。発行の申請ができるのは、申述人本人だけではなく、関係者でも可能です。交付には1通につき手数料150円がかかります。
なお、証明書の方は再発行が可能ですが、通知書の方は再発行はできません。もし、通知書を紛失した場合には、証明書を発行してもらうことになります。
(4)相続放棄したかどうかを照会するための必要書類
次は、相続人が本当に相続放棄をしたのか確かめるための必要書類や手続きについて解説します。
相続放棄したかどうかは裁判所に照会できる
さきほどもお話ししたケースですが「自分は兄弟がいて、優先的に相続される立場ではないにもかかわらず、相続権が与えられる」場合があります。
この場合は、相続順位が自分よりも上位であった相続人が、何らかの理由で相続を放棄したために起こったと考えるのが妥当です。
しかし、念のため、本当に相続放棄が行われて正式に受理されたのかどうかを裁判所に確認しましょう。
この申し立てを行えるのは『相続人や故人の債権者』など、遺産相続に関して利害関係がある人のみになります。申し立てる場所は『故人が生前最後に住んでいた地域の家庭裁判所』です。
この相続放棄の照会で確認できる期間は、故人の死亡日から3カ月の間です。もし3カ月を過ぎて相続放棄が行われていた場合には『申述なし』と回答されることもあるので注意しましょう。
照会のための必要書類
相続放棄の照会には、以下の書類が必要です。
- 照会申請書
- 相続人の目録
- 故人の住民票の除票
- 故人の戸籍謄本
- 照会者の住民票
- 照会者の戸籍謄本
- 相続関係の説明図
- 債権者などの利害関係のある人はそれを証明する書面
まとめ
こちらでは、相続放棄に必要な書類に関するあらゆる情報をまとめました。
- 相続放棄をするのかをはっきりするため残された財産と負債の確認をする
- 放棄が決まったら家庭裁判所に申述し受理されれば放棄できる
という流れは、おわかりいただけたのではないかと思います。
親族など関係の深い人が亡くなると、悲しみもある中で、いろいろとやることが多いのは大変です。しかし、自分たちの将来のためにも必要なことなので、きちんと手続きをしましょう。