「相続放棄は自分でできるの?」「費用はどのくらい?」など、トラブルが起きたときに慌てないようにしておきたいものです。予期せぬ事態から相続放棄しなければならなくなったときのために、知っておくと役に立つ、相続放棄のあれこれについて解説します。
目次
相続放棄とは
相続というとお金が舞い込んでくるようなイメージがありますが、実は借金も『遺産』として相続されるのをご存知でしょうか。
「借金があるなら相続はしたくない」そう思うのなら、全ての遺産を放棄し『はじめから相続人ではなかった』という扱いにする『相続放棄』という方法があります。
相続放棄の考え方
相続によって得る遺産は、大きく次の2通りに分けられます。
- プラスの遺産:現金・預貯金・動産・不動産など
- マイナスの遺産:借金・未払金
相続人はこのうちのプラスの遺産のみを相続し、マイナスの遺産のみを放棄することはできません。
つまり、借金がプラスの遺産よりも多ければ、残りの債務は相続人自身の財産から支払わなければならないのです。
債務がどれだけあるのか不鮮明な場合『限定承認』という相続の形態を取ることもありますが、マイナスの遺産が明らかにプラスの遺産分を上回る場合には、相続放棄を利用するのをおすすめします。
相続放棄の流れ
相続を放棄するためには一定の手続きをクリアしなければなりません。そう複雑なものではないので、順に追って流れをみていきましょう。
- 相続財産と負債の確認
- 申述書の作成
- 裁判所からの照会に回答
- 相続放棄の受理
- 受理後の対応
まずは被相続人のプラスの財産、およびマイナスの『財産を全て確認』する必要があります。郵便物や信用情報の取り寄せなどを利用して、隅々まで調査しましょう。
次に、管轄の家庭裁判所に提出する『申述書』を作成します。
書き方や添付資料、提出方法については裁判所のHPを参考にしましょう。申述書の提出後、裁判所から照会書への回答や不足資料の催促などがあれば、案内のとおりに対応します。
相続放棄が受理された通知を受け取ったら『相続放棄受理証明書』を発行してもらいましょう。
債権者からの問い合わせがあった場合に、この証明書があれば相続放棄していることを明確に伝えることができます。
相続放棄には期限がある
相続放棄の期限は民法915条1項に定められています。そ
の期限とは『自分が相続人であることを知ってから3カ月以内』です。この3カ月間の『熟慮期間』を過ぎてしまうと、原則として全ての遺産を相続しなければなりません。
ただし、期限後に相続放棄できなかった『相当な理由』がある場合に限り、期限後の相続放棄が承認されることがあります。『相当な理由』とは次の2つの条件を満たすことです。
- 相続人と被相続人の間に関わりがない
- 借金について知らされていなかった
また『被相続人の調査が3カ月以内に終わらない』などの理由がある場合には熟慮期間を『延長』することができます。必要があれば、管轄の裁判所に申し立てを行いましょう。
裁判所により延長が認められれば、期限を越しても手続きが可能になります。
自分で相続放棄をするときにかかる費用
相続放棄の手続きの代理を頼む先は、弁護士や司法書士といった法律の専門家です。普段あまり接点がないという人も多いのではないでしょうか。
依頼した方が確実ではありますが、費用面を考えると、自分でできるならやってしまおうと考える人もいるでしょう。
実際に自分で手続きできるのか、その場合の費用はいくらになるのか具体的に説明します。
自分で相続放棄はできる?
弁護士や司法書士などの専門家に頼むよりも、自分で手続きをした方がもちろん費用は安くおさえられます。では、実際に自分で手続きを行うことができるのでしょうか。
相続人が成人であり、手続きを行うことのできる事理弁識能力があれば、つまり、社会人として普通に生活している人であれば『本人による手続きが可能』です。
ただし、相続放棄は法律のルールに乗っ取って適正に行われる必要があります。
もし、手続きに不備があれば、相続放棄が無効とされたり、より複雑かつ困難な再申請が必要になったりするリスクも念頭においておきましょう。
自分でする場合は3000円程度
実際の費用がいくらになるのか見ていきましょう。ざっと下記のものが必要です。
- 申述書の印紙代:800円
- 被相続人および申述人の戸籍謄本:900円
- 除籍謄本・改製原戸籍謄本:750円
- 住民票:300円程度
- 郵便切手:家庭裁判所による
まずは裁判所に提出する申述書に添付するための『印紙代』がかかります。また、申述書に添付する必要書類を揃えるために『各証明書の取得料』も必要です。
相続人が被相続人の配偶者である場合、戸籍謄本の取得料は1つ分(450円)で済みます。
また、『住民票』はお住いの地域により異なるので、市区町村役場で確認しましょう。同じく『郵便切手』についても、管轄の家庭裁判所により異なります。
弁護士・司法書士に相談するときにかかる費用
自分での手続きには不安がある場合や、より迅速確実に適正な手続きをしたい場合は、専門家に依頼してしまうのが1番です。
自ら役所へ赴いて証明書類を揃える手間も省けるため、仕事が忙しく平日の休みを取りづらい人は、弁護士や司法書士に依頼しましょう。
弁護士に頼めること
最難関の試験ともいわれる司法試験に突破した法律のエキスパートである弁護士は、あらゆる法律問題を取り扱うことができます。
もちろん相続に関する問題も、弁護士に依頼すればほぼすべてのケースについて対応が可能です。
また、弁護士には『代理権』が認められているため、相続人の代理人として裁判所と交渉をする権利も持っています。
司法書士に頼めること
司法書士は不動産登記のエキスパートです。相続によって必要となる不動産の所有権移転の登記などが、司法書士の業務範囲といえます。
登記に関していえば、弁護士よりも司法書士のほうが適任である場合が少なくありません。
また、最近になって司法書士も簡易裁判所における代理権が認められるようになりました。相続関係の一部手続きにおける『必要書類の代理作成』もできます。
一般的な相場
弁護士・司法書士それぞれに依頼したとき、いくらくらいかかるのか費用の相場を確認しましょう。
司法書士
- 相談料:~5000円 /1時間
- 申述書作成費用:3000~6000円
- 代行手数料:2~3万円
弁護士
- 相談料:~1万円 /1時間
- 申述書作成費用:5000円~1万円
- 代行手数料:5~10万円
上記は目安にすぎませんので、依頼先に直接料金を確認する必要があります。
それでもこんな時には相談した方がよい弁護士
上記で確認した通り、自分で手続きをした方が圧倒的に低コストで手続きができます。しかし、自分での手続きをおすすめできるのは、あくまで通常の手続きの場合のみです。
もし、次の3点に該当するのであれば、手続きはより複雑になるため、専門家に相談することをおすすめします。
熟慮期間を過ぎている場合
相続放棄は3カ月の熟慮期間内に手続きしなければなりません。
しかし、2つの条件を満たすときのみ熟慮期間が過ぎた後も相続放棄の『例外的な手続き』が認められることがあるというのは、すでにお伝えしたとおりです。
裁判所に認めてもらうためには、やみくもに自分がこの条件に当てはまるということをまくし立てるのは得策ではありません。
スムーズに手続きを進めるためには、専門家のスキルやノウハウが必要になります。
過払い金請求できるかもしれない場合
『過払い金』とは、長期にわたって消費者金融から借り入れや返済を繰り返していた場合に発生する可能性のあるお金です。過払い金は戻ってくるお金なので、プラスの遺産になります。
もし、このケースに当てはまるのであれば、まずは信用情報機関に『信用情報』を問い合わせましょう。法定相続人であれば手続きが可能です。
しかし、この手続きにおいても、証明書を取りに行ったり申込書を書いたりと煩雑な作業が発生します。
また、過払い金を受け取ることで相続を認めることになってしまうため、返還請求の前に過払い金でマイナス遺産分をカバーできるのか確認しなければなりません。
これもやはり、専門家に依頼した方が確実でしょう。
相続人が未成年の場合
相続人に未成年者がいる場合、そしてその未成年者だけが相続放棄する場合は、専門家に依頼することになります。
未成年者は自分で相続放棄の手続きができないため、誰かその資格能力のある人に代理を頼まなければなりません。
しかし、その未成年者の親は『代理人になれない』規定です。
法律の定めるところによると、本人と代理人との間に『利益相反』の関係が成立する場合、その代理人は法律行為を行うことができません。
親が子どもにだけ相続を放棄させ、自分の財産の取り分を増やすなどといった悪用をふせぐために、このような決まりがあります。
それでも一部の未成年者のみを相続放棄させるのであれば、特別代理人を選定しなければなりません。このケースでも専門家の手助けが必要です。
こんな時の費用/保険金は相続放棄しても使える/もらえる?
相続放棄の手続きは、手続きを行っているという証明にすぎません。そのため、遺産を使った事実があれば、相続放棄が無効となることもあります。
では、葬儀費用はどうするのか、保険金や年金は受け取れるのか、株式についてはどうなるのか確認していきましょう。
故人の葬儀・火葬費用の立替
過去の裁判例によると「被相続人の葬儀費用のために遺産を使った場合は、相続財産の処分にあたらない」とされたケースがありました。
もし、それが認められないのであれば、相続放棄したら葬儀費用は遺族が自分の財産を使わなければならないということになります。
被相続人に相応しい規模の葬儀を行う費用にあてる分に関しては、遺産を使うことが認められるというわけです。
しかし、これはあくまで判例の1つにすぎず、相続にあたらないと法律で決まっているわけではありません。
相続放棄が無効になる可能性をゼロにしたいのであれば、葬儀費用は自己負担した方がよいでしょう。
故人の生命保険金
生命保険金は『保険金受取人』の財産とみなされます。
被相続人の遺産ではないため、保険金を受け取ることは相続ではないのです。そのため、相続放棄していても保険金を受け取ることができます。
ただし、保険金は税制上においては『みなし相続財産』の扱いのため、課税対象です。
単純承認の場合、保険金には相続人1人につき500万円の非課税金額の適用がありますが、相続放棄している場合はこの適用がありません。
また、相続人1人につき600万円の基礎控除は適用されるため、この金額を超える部分にのみ相続税がかかることになります。
遺族年金・故人の未支給年金
遺族年金や未支給年金についても、保険金と同じく相続財産とはみなされません。受取人固有の財産であるため、受け取って使った事実があっても相続放棄ができます。
相続財産にあたらないことが法律により定められているので、絶対に相続したくない場合であっても受け取って問題ありません。
故人の株式
株式はプラスの遺産として相続するものです。相続放棄するのであれば、もちろん株式も放棄することになります。
気をつけておきたいのが「相続が開始されたことを知りながら株式の議決権を行使した事実があったとき、相続財産の処分にあたる」とされた判例が過去にあるということです。
相続放棄を考えているならば、株式に関わる行為には手を出さないことが賢明でしょう。
相続放棄しても請求されうる費用
相続放棄を手続きを終えていても、被相続人の『所有物件の管理』については相続人が責任を持たなければなりません。
しかし、マイナスの遺産を受け取りたくないために遺産放棄したのであれば、費用のかかるかもしれない要素は全て取り除いておきたいものです。
どのような対策すればよいのか確認しましょう。
故人の所有物件の解体費用
被相続人が土地家屋を所有していた場合、相続放棄の手続きが済んでいても、相続人はその土地家屋の『管理者』のままです。
民法940条および、国が定めた『空家等対策の推進に関する特別措置法』によると「相続人は所有者ではないが、被相続人の遺した空家を管理する義務がある」としています。
例えば、その空家に倒壊のおそれがある場合には、市町村長は管理者に対し解体などの措置を取るように求めることが可能です。また、市町村が行った解体費用を請求される場合もあります。
『管理人』を決める必要あり
管理人から外れたいときは『相続財産管理人』を決める必要があります。つまり、所有者のいなくなった空家=財産を国へ返す手続きをしてくれる人を選任するのです。
相続財産管理人を選任するには、管轄の家庭裁判所に申し立てを行いましょう。これが受理され、新たな管理人が決定すると、相続人が管理者になっていた財産についての義務から解放されます。
相続放棄の費用を抑えるには
相続放棄の手続き費用を抑えるには、自分にとってどの方法がよいのか知る必要があります。コストとパフォーマンス両面から考えて、最もよい選択をしましょう。
相続放棄の手続きを誰がどう行うか、3通りの方法があるので確認していきます。
①自分でする
相続放棄を手続き費用を最も安くおさえたい場合は、すべての手続きを自分で行いましょう。すでに確認したとおり、一般的な相続放棄の手続きのみであれば、かかる費用は3000円程度です。
ただし、申述書を書いたり、添付書類を揃えたりする時間を確保し、実行する手間がかかるので、面倒な作業をする覚悟が必要になります。
②事務所を比較する
各手続きの値段設定はその事務所の経営者が決定します。そのため、弁護士や司法書士に依頼する場合、事務所によってその費用はさまざまです。
費用の高さと仕事の内容が必ずしも比例するわけではありません。実績のある信頼できる事務所をいくつか選び、それぞれの事務所で見積もりを出してもらうとよいでしょう。
③法テラスで相談する
自分で手続きするにしても、事務所に依頼するにしても、まずどう動けばよいのか分からないときには『法テラス』で相談する方法があります。
法テラスは『日本司法支援センター』の愛称で、国民が等しく法的サービスを受けられるようにするため、設立されました。
相談料は無料で、実際に手続きにかかる費用は立て替えてもらうこともできます。後に支払いが必要ではありますが、一括で支払うことが難しいときには利用してみるとよいでしょう。
まとめ
自分が相続人であるとわかったら、すぐに被相続人の財産について調査を始めましょう。もし、マイナスの遺産が多いようであれば、3カ月の熟慮期間内に手続きをする必要があります。
手続きは自分で行う場合は3000円程度、司法書士に依頼するのであれば2万5000~4万円ほど、弁護士に依頼する場合は5~12万円ほどかかります。
費用面だけで考えれば自分で手続きを行うのがベストですが、思わぬ落とし穴にはまらないか不安が残る場合には、法律の専門家に依頼して確実な手続きをしてもらうのがよいでしょう。