相続放棄して土地を手放したい。方法や費用、注意点について解説

遺産相続で利用価値がない土地の所有者になったとき、たとえ先祖から受け継いだ土地だとしても、現実的には手放したくなるものです。そのような場合は『相続放棄』によって手放すことが可能ですが、その方法や費用、注意点などを解説します。

先祖の土地でも相続したくないときはどうすればいい?

もし自分が相続人となり、土地の所有者になったとしても、その土地が利用価値のないものだったらどうでしょう。

そのまま所有していれば『固定資産税』が課せられ、場合によっては『維持管理費用』もかかってきます。しかしながら、一度相続してしまった土地の所有権は放棄できません。

そのような場合、売却するという選択肢はあるでしょうか。これも利用価値のない土地であればなかなか買い手がつきません。

手放す方法は皆無なのでしょうか?実は1つだけ、方法があります。詳しく解説しましょう。

『相続放棄』できる

もし、売却しようとしても買い手がつかず、寄付しようにも誰も欲しがらないような土地であったとしても、土地の所有権を放棄することはできません。

しかし、土地も含めた相続そのものを『全面的に』放棄することはできます。相続放棄をすれば土地の所有者はいなくなります。

相続人が1人の場合はその人が、複数の場合はその全員が相続放棄をすれば、選任された『相続財産管理人』によって財産が清算され、残った土地は結果的に国庫に帰属することになるのです。

相続放棄は自分でもできる?

相続放棄をおこなおうと決めたとき、独力でもできるのでしょうか。答えは、できます。

しかしながら、相続放棄の手続きは、さまざまな書類を正確に作成しなければなりません。少しの費用で済むのなら、その道の専門家に依頼するのもよいでしょう。

事実関係をきちんと整理し、正確な書類を裁判所に提出すれば、何か特別な懸念事項がない限りは受理されるので、法律全般の専門家である弁護士に依頼しなくても大丈夫です。

『司法書士』の方が費用も安く済み、また日頃から登記関連の書類を正確に作って提出する経験を積んだプロなので、相続放棄の案件などは得意な業務でしょう。

土地の相続放棄の手順と費用

「土地の所有権を手放すため相続放棄をする」となったとき、どのような手順でどれぐらいの費用がかかってくるのでしょうか。具体的に確認しておきましょう。

相続放棄の手順

まず、『戸籍』に関するさまざまな必要書類を取得します。

  • 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本、あるいは除籍・改製原戸籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 届出をする相続人自身の戸籍謄本

次にそれらの書類に『相続放棄申述書』を添えて、家庭裁判所に提出し相続放棄を申請します。必要な書類が揃ったことが家庭裁判所に認められれば、申請者宛に『照会書』が送られてきます。

たとえば、以下のような設問内容です。

  • 被相続人の死亡を知った日付
  • 自分の意志で相続放棄をするのかどうか、またその理由
  • 遺産に手を付けたかどうかの有無

照会書に記入した内容を家庭裁判所が相続放棄申述書と照合して、相続放棄に問題なしと判断されれば、相続放棄は受理されます。

数日以内に家庭裁判所から『相続放棄受理通知書』が送付されてくるでしょう。

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放棄した後も続く管理義務

相続人全員が相続放棄をし、次順位者も相続放棄をし、次順位者が1人もいなくなって初めて『相続人不存在』の状態になり、相続財産は法人化します。

その後、債権者あるいは元相続人が家庭裁判所に申し立てて『相続財産管理人』が選ばれます。その管理人が財産の清算をし、残った財産が国庫に入ります。

しかし、実際にそう進むことはまずないようです。相続財産管理人の選任は家庭裁判所に請求しなければなりません。

債権者がいて請求するのは妥当な流れですが、誰もしない場合、相続人が申し立てをしないかぎり相続財産管理人は選ばれません。

放棄の後に相続財産管理人が財産の管理を始めるまでは『放棄した相続人』に管理する義務があります。放置していることによって何かの不具合が生じた場合は、責任問題になる可能性もあるでしょう。

相続放棄をしてもそれだけで安心はせず、管理義務の所在を明らかにするのが必要です。

相続放棄の諸費用

相続放棄の手続きには費用が掛かります。どういう種類のものがどれぐらい掛かってくるかを、あらかじめ確認しておきましょう。

相続放棄には以下の費用がかかります。

  • 収入印紙の代金:800円
  • 郵便切手の代金:申請先の家庭裁判所により金額は変動
  • 手続き代行を依頼した場合の報酬:司法書士3〜5万円程度、弁護士5〜10万円程度

土地の相続放棄についてのよくある疑問

遺産相続を受けたものの、利用価値のない土地も含まれていて困っている場合、相続放棄の選択肢もあります。

相続放棄を検討するにあたって、浮かんでくるであろう疑問が色々あるでしょう。よくある代表的な疑問に答えていきます。

相続放棄した後は、管理人の選任までした方がいい?

相続財産管理人が選任されて、その管理人によるすべての財産の清算が完了すると、残ったものが国庫に入ることになります。

しかし、土地の場合、実際には国はほとんど引き継ぎません。利用価値のない土地は要らないからです。実際、相続放棄の結果残る土地はまず売れず国も欲しがらないため、行き場を失います。

管理人の役目も完了しないので、相続管理人の選任を請求者した人は報酬を払い続けることが必要です。長引けば、相続して維持する管理費の方が安くなってしまうかもしれません。

このような場合、相続放棄してからは財産管理人の選任を申し立てずに土地の管理義務のみを負い続けている方が、かえって安く済む場合もあるでしょう。

相続してしまえば財産について自由な処分が可能なので、ほかに負債がないのなら高くとも地道に売却先を探す方がよいという考え方もあります。

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土地の名義を変更するのに相続放棄は必要?

相続人が複数いる場合で、その中の1人が土地の名義変更をするとしたら、ほかの相続人が相続放棄をする必要はあるのでしょうか?

土地の名義変更が目的なのであれば、相続放棄ではなく『遺産分割協議』によるのが妥当です。その協議で相続人全員の同意があれば、土地の名義変更ができます。

共同名義の土地が相続放棄されたときは?

共同名義の財産は、自由に持ち分を放棄することが可能で、放棄した持ち分は『元共有者』に帰属します。この共有持ち分の放棄があると『相続税』の課税が生じる可能性があります。

相続税に関する通達によって「共有財産の共有者の1人が持ち分を放棄したときや死亡した場合にその人の相続人がないときは、その持ち分は元共有者が贈与または遺贈されたもの」とみなされるからです。

一旦相続放棄された土地を購入するにはどうすればいい?

相続放棄された土地はシンプルに国庫に帰属するのではなく、相続財産管理人の選任を得て清算がおこなわれます。相続放棄された土地を購入したい場合には、どのようにすればよいのでしょうか。

管理人に交渉する

相続放棄が認められたあとの土地に関して、どこに所有権が移っているかなどの現状に関しては『官報』で確認する方法があります。

もし相続財産管理人がすでに決まっていれば、その管理人から現況を聞き、場合によっては購入の交渉も可能かもしれません。

あるいは、不動産の仲介業者などにその物件の仲介を相談すれば、実情を調査してもらえます。購入できそうなものなら、その仲介を依頼することもできるでしょう。

相続放棄された土地を購入するときの注意点

相続放棄された財産は法人化され、手順を得て相続財産管理人が管理することになります。相続財産管理人は、裁判所の許可にもとづいて土地を売却することが可能です。

相続放棄された土地を購入したい場合、契約の相手が相続管理人であるなら資格の有無を確かめましょう。それに加えて、売買内容が裁判所の許可した内容に合致しているかも調べる必要があります。

もし、売却の権利を持たない者と契約してしまうとのちのちトラブルになるかもしれません。注意すべき点ですので、確認するようにしましょう。

まとめ

遺産相続で引き継いだ資産に利用価値がない土地があった場合、土地の所有権は放棄できませんが相続を全面的に放棄することができます。

とはいえ、放棄はしても売却も国庫の引き取りもない場合は、管理人報酬を延々と支払っていくことになります。

慎重に検討すれば、放棄しても管理人を選任しない方向で、管理義務を負う方がよい場合や、放棄せずに気長に処分の方法を模索するほうがよい場合もあります。

土地がらみの相続は、トータルの損得を考え専門家に相談して進めるのが賢明です。