相続財産の管理人を選任したい。予納金と選任方法について解説

相続財産に借金や未払金などの負の遺産があった場合、相続放棄をする選択肢があります。もし血縁関係者が全員相続放棄をした場合、財産を管理する管理人を選任しなければなりません。裁判所へ支払う予納金の目安や選任方法について解説します。

相続放棄について

遺族に代わり、相続財産を管理する人を『管理人』といいますが、管理人の選任と申立てが行われるのは、血縁者全員が『相続放棄』をした場合です。

では、相続放棄はどのような状況下で選択されるのでしょうか?

負債の方が大きそうなら相続放棄を検討

親から引き継がれる遺産の中には『プラスの財産』と『マイナスの財産』があります。

『プラスの財産』は

  • 貯蓄
  • 不動産
  • 貸付金
  • 美術品
  • 貴金属類

『マイナスの財産』は

  • 借金
  • 住宅ローン
  • 買掛金
  • 損害賠償金
  • 未払金

などです。プラスの財産よりもマイナスの財産のほうがはるかに上回っている場合、もしくはマイナスの財産しかないため肩代わりするのが難しい場合は、相続放棄をするのが有効でしょう。

ここで相続を放棄すると、未払金や借金などの一切の負担がなくなるため、受取人自身の生活への影響が回避できます。

相続放棄は撤回できない

相続放棄をする前に覚えておきたいのが、一度放棄したら二度と撤回ができないという点です。

詐欺や脅迫でやむを得ず放棄した場合や、法定代理人の同意を得ずに、未成年者が相続放棄申述をした場合などは例外ですが、そのほかは撤回の理由として認められていません。

たとえば、相続放棄した後に負債を上回る不動産が見つかったとしても、撤回を申し出ることは不可です。

また、被相続人(亡くなった人)が名義の死亡保険金を何らかの理由で受け取った場合、故人の財産を相続したと見なされるため、相続放棄の申し出自体ができなくなります。

このように、相続放棄にはメリットとデメリットがあることを覚えておきましょう。

放棄した後の資産はどうなる?

相続放棄をすれば、自分に相続の一切の権利がなくなります。放棄した後の資産がどうなるか、またはどうするかは、他に相続人がいる場合といない場合によって異なります。

相続順位が変更される

相続放棄を行うと、相続の順位が変更されます。亡くなった人に配偶者がいれば、相続人は常に『配偶者』です。

故人に配偶者がいない場合もしくは配偶者が相続放棄した場合は、以下のような相続順位が考えられます。

  • 第1順位:被相続人の子どもや孫(養子含む)
  • 第2順位:被相続人の両親や祖父母
  • 第3順位:被相続人の兄弟姉妹、または甥・姪

たとえば、配偶者がいない『父親』が死亡した場合、相続者はその『子ども』です。子どもたちが全員、相続を放棄したら、亡くなった『父親の両親』に相続権が移行します。

また、相続放棄をするといっても、次の人に相続を引き継ぐまではしっかりと財産を管理しなければなりません。

相続人がいない場合は、管理人が選任される

上の例で、父親の両親や祖父母も他界しており、かつ被相続人の兄弟姉妹、甥・姪も相続を放棄したときは、相続人が不在となってしまいます。

巨額の負債を抱えている場合は、こうしたパターンも少ないとは言い切れないでしょう。

負債の解決法が決まり、しかるべき手続き(国への帰属など)がとられるまでの間は、財産を管理するための『相続財産管理人』が必要です。

相続財産管理人(以下:管理人)は、家庭裁判所によって選任されます。

税金の支払い義務は消えるが管理義務は残る

日本の法律には『財産管理義務』があり、相続人がいないからといって、残った借金や財産をほったらかしにはできないことになっています。

税金や借金の『支払い義務』と『管理義務』は全く別のものと考えましょう。

たとえば、父親の遺産相続を子どもが放棄する場合、子どもは、次の相続者への帰属が決まるまでは、財産に手をつけたり、家を解体したりせずにしっかりと管理しなければなりません。

その間、財産を維持するためのコストがかかるのは仕方がないと考えましょう。次の相続者または管理人が選任されてはじめて、相続放棄者の管理責任が消滅します。

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管理人を選任するのにかかる費用について

血縁者が全て相続を放棄した場合、相続財産を管理する『管理人』を選任しなければなりません。選任の仕方や、発生する費用について解説します。

管理人には誰がなる?

家庭裁判所への『管理者選定の申し立て』が第1ステップです。申し立てをするのは、主に利害関係人・検察官などで、家庭裁判所に対し特定の人を推薦することもできます。

利害関係人には以下のような人が含まれます。

  • 相続債権者・相続債務者
  • 相続財産の共有者
  • 特別縁故者
  • 特定受遺者

管理人に適しているのは、財産管理の知識がある程度備わっており、かつ利害関係がない人です。

大抵は弁護士などの司法人の中から選ばれるでしょう。各裁判所が保有している弁護士リストなどが参考にされています。

管理人を選任するのにかかる費用とは

管理人を選任するには、裁判所に以下の費用を支払う必要があります。

  • 収入印紙:800円
  • 官報広告料:3800円前後
  • 郵便切手:800円前後(裁判所によって異なる)

この際、故人の戸籍謄本や、住民票、財産を示す証明書、申し立て人との関係が分かる書類などを提出します。費用を支払うのは『管理人の申し立てを行った人』です。

これらの手数料とは別に、申し立て人は『予納金』を支払わなければなりません。

予納金はなぜ必要?

『予納金』とは、申し立て人が裁判所に収めるお金です。

相続財産管理人の報酬は、遺産の中から支払われるのが通常ですが、負債しか残っていない場合や遺産が少ない場合は、報酬が十分に確保できない可能性もあります。

そのときは、予納金が報酬としてあてられる仕組みです。予納金の金額は、事案に応じて裁判所が決定します。数十~100万円が目安でしょう。

結局管理人を選任するべきなのか

相続財産を管理する管理人は必ずしも必要なわけではありません。遺産の清算事務を行う人が身内の中で選出できれば、管理人は不要です。

申し立てをする前に考えるべきポイントは以下の2つです。

選任費用を考慮すると微妙なライン

管理人を選任すべきか迷う理由には、予納金が関係しているでしょう。報酬にあてられる予納金は、少なくとも数十~100万円という決して安くはない金額です。

これらの選任費用を捻出しなければならないと考えると、管理人を申し立てるかどうかは微妙なラインかもしれません。

相続遺産の中に負債がなければ、相続者が素直に相続してしまうのも1つの手です。現実問題として財産の価値のない田舎の空き家のために、多額の予納金を支払うのはためらいがあるでしょう。

『不要な不動産』を引き継いだときの税金や管理の煩わしさから、相続放棄をする人も見受けられますが、自分達で管理できない不要な土地は、価格を下げて早めに売却する選択肢もあります。

相続放棄して管理義務を負う

もし遺産の中に負債があった場合は、相続放棄をしたうえで『管理義務』のみを負うこともできます。

管理に伴うコストは多少かかりますが、数十万という選任費用を払わなくても済むでしょう。また、相続放棄すれば、借金や未払金の支払い義務も発生しません。

まとめ

遺産の中には、税金だけが発生する田舎の空き家や、負債、未払金などが含まれる可能性があります。相続放棄をすれば全てから解放されると考えるのは間違いです。

次の相続者または管理人が見つかるまでは相続者がしっかりと管理しなければならず、そのまま放置すれば管理人の責任をまっとうしていないと見なされるでしょう。

管理人を申し立てるにはまとまったお金が必要です。身内や家族と話し合い、生活の負担にならないベストな方法を考えましょう。