親の遺産に借金が含まれている場合、相続を放棄するという選択肢もあります。相続放棄すると、プラスの遺産も受け取れなくなりますが「借金を背負うよりはマシ」と考える人は多いでしょう。具体的な相続放棄手続きの流れや注意点について解説します。
親の借金を相続しないためにできること
遺産相続と言えば『お金がもらえる』というイメージが先行しがちですが、なかには借金を引き継いでしまうケースがあります。その場合、相続放棄という手続きをすれば、借金を相続せずに済みます。
ただし、相続放棄をする際には細かなルールがあるので、きちんと理解してから手続きを進めましょう。まず相続放棄とは何なのかを解説します。
『相続放棄』とは
相続放棄とは、亡くなった人の一切の財産を相続せず、すべて放棄することです。遺産には、現金をはじめ貯金や不動産などプラスの財産のほか、借金が含まれていることもあります。
もしその借金を相続した財産の中から支払えない場合は、相続人が自ら支払わなければいけません。つまり、借金を背負うことになるのです。
しかし、こういう場合に相続放棄を利用することで借金の相続を回避できます。相続放棄すれば、相続人ではなくなるので、借金の支払い義務は発生しません。
相続放棄には細かな取り決めがあります。きちんと理解したうえで決断しないと「こんなはずじゃなかった」と後悔することになるので注意しましょう。
借金だけを放棄することはできない
相続放棄すると借金を相続せずに済みますが、それと同時に現金や貯金などのプラスの財産も一緒に放棄することになります。つまり借金だけを放棄することはできないのです。
借金を放棄することばかりに目が向いてしまい、焦って相続放棄した後、負債額以上の財産が見つかったというケースも少なくありません。その場合、結果として損をしてしまいます。
一度相続放棄してしまうと基本的には撤回することができないので要注意です。相続放棄できる期限は基本的に、相続を知ってから3カ月と定められているので、その間にしっかり相続財産の調査をしましょう。
遺産分割協議では借金の放棄はできない
亡くなった人の財産の分け方を相続人全員の合意のもと取り決めることを『遺産分割協議』といいます。プラスの財産については、遺産分割協議で分け方の決定が可能です。
しかし負債に関しては、遺産分割協議だけで成立させることができません。相続の開始後3カ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
法的手続きを正確に踏まなかった場合、借金を相続放棄したと思っていてもいきなり請求書が届くことになるので注意しましょう。
相続放棄の流れ
相続放棄を完了させるためには、プロセスを正しく理解する必要があります。具体的な法的手続きについて、流れに沿って見ていきましょう。
相続放棄の手続きは『財産の確認』から始まります。借金を含めどれだけの財産があるのか、改めて調査するのです。
財産の確認
相続放棄をすると決めていたとしても、まずは財産の確認をしましょう。もしかすると、亡くなった人が誰にも言わずに残していたプラスの財産が見つかるかもしれません。
その額が借金を上回っていた場合、相続放棄をする必要がなくなります。一度相続放棄をすると撤回できなくなるため、この時点でしっかりと財産の有無を確認しておくことが大切です。
プラスの財産としては、以下のものが挙げられます。
- 土地
- 建物
- 自動車
- 家財道具
- 貴金属
- 銀行の預貯金
- 株式
これらのプラスの財産の価値の合計をしっかり調査してください。マイナスの財産である借金の額についても、カード会社や銀行からの書類を見てチェックしましょう。
放棄の手続き
相続放棄の手続きを自分でおこなう場合に必要な費用は、収入印紙代800円と郵便切手代です。法律事務所などの手続き代行サービスを利用する場合は、最低でも3万円程度を要します。
準備する書類は以下の3点です。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(もしくは戸籍附票)
- 申立人の戸籍謄本
申立人と亡くなった人の関係性によっては、この3点に加えて書類が必要になることもあるので注意しましょう。
必要とされている費用と書類が用意できたら、家庭裁判所に提出し、特に問題がなければ、提出後3〜4日後に『相続放棄申述受理通知書』が郵送で届きます。
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相続放棄の期限について
相続放棄には、期限があります。その期限は『相続が開始されたことを知ってから3カ月以内』という規定です。これを熟慮期間と呼びます。
この期限を過ぎてしまうと、原則的に相続放棄はできません。遺産に借金が含まれていた場合、どれだけ多額の借金だとしても支払わなければならなくなるので十分気をつけましょう。
全員が放棄したら借金はどうなる?
相続人全員が相続放棄した場合、亡くなった人の借金はどうなるのでしょうか。その場合の流れについて解説します。
相続人が1人もいなくなると、債権者はまず家庭裁判所に『相続財産管理人の選任』を申し立てることができます。相続財産管理人とは、相続財産の管理をおこなう人のことです。
多くの場合は弁護士が選ばれます。この相続財産管理人によって、遺産の中から平等に借金が返済される仕組みです。
ただし、相続財産管理人が決まるまでの間については、相続人は相続財産の管理責任があることを心得ておきましょう。
借金を知らなかった場合の対処法
亡くなった人との関係性や状況によっては、借金があることを知らずに3カ月以上過ぎてしまうケースもあります。その場合、相続放棄はできないのでしょうか。
相続放棄は原則3カ月以内と前述しましたが、例外もありますので、以下に解説していきます。
3カ月を過ぎても相続放棄はできる
相続放棄の期限は、相続が開始されたことを知ってから3カ月以内です。基本的には、この期限を過ぎると相続放棄できません。
しかし以下のように『相当な理由』がある場合は、3カ月を過ぎても認められることがあります。
- 亡くなった人と全く関わりを持っていなかった
- 借金があることを知らなかった
というケースです。ただし、亡くなった人と同居していた場合は、借金を知らなかったという理由は認められない可能性があります。
『相当な理由』かどうかの判断が難しい時は、専門家に相談してみるのがよいでしょう。
熟慮期間を過ぎている場合は専門家に頼むのが安全
相続放棄の期限として定められている3カ月を過ぎた場合、まずは専門家に相談しましょう。
相続放棄に詳しい弁護士や司法書士に頼むと、適切な手続きによって相続放棄が認められる可能性が高くなります。
しかし、このような例外的に認められるケースはあっても、そのことを計算に入れて判断を後回しにするのはよくありません。相続放棄する意思がある場合は、熟慮期間内に手続きを済ませておくようにしましょう。
相続放棄したら親戚への連絡は忘れずに
相続放棄をしたら、忘れずにすべきことがあります。それは『相続放棄したことを親戚に伝えること』です。
なぜ親戚に連絡する必要があるのでしょうか。まずは、その理由から解説していきます。
相続放棄することで相続順位が変わる
相続放棄すると『初めから相続人でなかった』という扱いになるので、次の順位の相続人(後順位者)に相続資格が移ります。つまり、相続順位が変わるのです。
その際、後順位者に裁判所から通知が送られる制度はありません。そのため、後順位者は自分が相続人となって借金を負うかもしれない事実を知らずにいる可能性があります。
知らせないと身に覚えのない借金を請求されるはめに
相続放棄したことを知らせないと、後順位者は身に覚えのない借金を請求されてしまうかもしれません。そうなった場合、親戚の間でトラブルが起きたり、関係性が悪くなったりすることが考えられます。
あらかじめ連絡しておけば、このようなトラブルを回避できます。後順位者も借金を負いたくない場合は、相続放棄の手続きをとれば問題ありません。
相続放棄をするときのデメリット・注意点
相続放棄をすれば、亡くなった人の借金を引き継がずに済むというメリットがあります。しかしデメリットもあることを忘れてはいけません。
3つのデメリット・注意点を紹介します。メリットとデメリットの両方を知ったうえで、相続放棄するか否かの決断をしましょう。
全ての財産を放棄することに
遺産には、プラスの財産とマイナスの財産があります。プラスの財産とは、現金や貯金、不動産などを指します。マイナスの財産とは借金などのことです。
家によっては先祖代々伝わる土地があるかもしれません。家宝が眠っていることもあるでしょう。相続放棄するということは、これらの全ての財産を受け取ることを放棄するということです。
事前にプラスの財産がないかどうか確認しましょう。また、一度相続放棄をすると撤回できないので、熟慮期間内に十分考えて決断することが大切です。
相続放棄後でも借金が残る/発生する場合がある
相続放棄後は、亡くなった人の借金の額がどんなに多くても、その借金に関しては返済する義務はありません。
ただし、明らかに亡くなった『後に』故人のクレジットカードを使用した場合などは、それが亡くなった人のための費用であったとしても請求を免れるのは厳しいので注意しましょう。
相続財産に手を付けると放棄できなくなる
相続財産に手をつけてしまうと、相続することを認めたとみなされ、相続放棄ができなくなります。相続放棄を検討している場合は、財産に一切手をつけないようにするのが肝心です。
もしこの決まりを知らずに手をつけてしまった時は、すぐに弁護士に相談しましょう。場合によっては、手をつけてしまっても相続放棄が認められる場合があります。
まとめ
マイナスの遺産が明らかに多い場合は、相続放棄して借金を回避した方が賢明な場合があります。しかし、相続放棄には期限など細かなルールがあるので、きちんと理解したうえで決断しましょう。
無知のまま焦って手続きを進めてしまうと、大きな損をしたり、親戚関係でトラブルが起きたりするかもしれません。
相続放棄に関する基礎知識をあらかじめ持っていれば、落ち着いて対応できるでしょう。