遺産相続は期限内に申請をすれば放棄できるのをご存知でしょうか。遺産は必ずしもプラスになるわけではなく、マイナスになることもあるのです。そのようなとき申請をすれば、借金を背負わなくて済みます。相続をするときは、まず資産の確認をしましょう。
目次
相続放棄とは
相続というとプラスのイメージがありますが、実は借金を背負ってしまうケースもあります。そういったときには『相続放棄』という申請をするとよいでしょう。
相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった方の財産の相続を『放棄』できる申請のことです。不動産や土地などの相続を合計するとマイナスになってしまう場合には、相続放棄をした方がよいこともあります。
遺産を相続するということは、人生で何度も起こるできごとではないため、相続放棄の手続きを正しく理解している人は少ないでしょう。
そもそも放棄した方が得なのか損なのかが、はっきりとわからない状態の場合も多くあります。それらを見極めることが大切です。
相続放棄を選択すべき基準は?
相続放棄を選択すべき基準はいくつかあります。その中でもっともわかりやすいのが『明らかに財産がマイナスになる』ときです。
相続する財産の中でプラスの資産とマイナスの資産を比べたときに『借金』になってしまうと判断できたら、相続放棄を選択するとよいでしょう。
もしもマイナスの状態でそのまま相続してしまうと、その借金はあなたが支払う決まりになっています。そのようなケースを回避するためにも、相続放棄という手続きがあることを覚えておきましょう。
また、相続する借金の額がわからないときには『限定承認』の手続きを行う選択肢もあります。限定承認とは、プラスの遺産とマイナスの遺産がある場合にマイナスにならない範囲で相続できる方式です。
ほかにも「遺産相続で揉めたくない」場合などには、相続放棄を検討するとよいでしょう。
ただし、相続放棄の申請を裁判所からが却下されるケースもあります。『相続人が財産を一部でも処分』したり『相続放棄をしたあとに財産を隠蔽』したりすると、申請が通らない可能性が高いです。
遺産の相続を行う前にまずはしっかりと残っている財産を確認し、取り扱いは慎重に行いましょう。
自分への相続に、借金や滞納金などの負の遺産が多い場合は『相続放棄』をする選択肢もあります。相続放棄をすると遺族年金や生命保険金などの受給権も...
相続放棄の期限はいつまで?
相続放棄は基本的には3カ月以内に行う規定です。しかし、3カ月を過ぎてしまっても、相続放棄が可能な場合もあります。相続放棄は裁判官の法律の解釈によって変わることがあるからです。
3カ月を過ぎたあとに相続放棄を申請しても『相当の理由』がない場合には認められません。申請が許可される可能性がある理由としては『遺産の存在に気づいていなかった』ケースなどが考えられます。
(1)相続放棄の手続き 事前準備
相続放棄の申請を行うためには事前の準備が大切です。書類ミスなどで誤って申請が通らない事態にならないように、しっかりと学んでいきましょう。
必要な情報を集めよう
相続放棄を申請する前に、まず必要な情報を集めることが大切です。相続人になったらまずは財産の確認を行いましょう。
相続するかどうかは財産がプラスになるのか、マイナスになるのかしっかりと見極めることが大切です。金融機関や不動産などを調査することも大切です。
思わぬところでマイナスが発生することはよくあることなので気をつけましょう。
必要書類を集めよう
相続放棄するためには
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
が必要になります。申述人の関係性によって、用意する戸籍謄本が変わるので注意しましょう。例えば、申述人が配偶者の場合は『被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本』が必要です。
申述人が子や孫の場合は『被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本』か『配偶者または子の死亡記載のある戸籍謄本』を用意する必要があります。
申述人が親や祖父母、兄弟や姉妹だった場合にも、用意すべき戸籍謄本は違う種類のものです。書類を用意するときには、戸籍謄本の内容が合っているかをしっかりと確認してから記入しましょう。
(2)相続放棄の手続き 申述書の提出
相続放棄の申請を行うには『相続放棄の申述書』の作成が必須です。記入に不備やミスがあると書類を受理されない可能性もあるので、しっかりと準備していきましょう。
申述書を記入
『相続放棄の申述書』は裁判所のホームページでも入手することができます。申述書は申請する人が未成年か、それ以上の場合かによって記載する内容が変わります。
申述書にある『申述の理由』の内容が非常に大切です。場合によっては事情説明書や説明資料を追加で作成する可能性もあるでしょう。
また、相続放棄を行う理由もしっかりと記載する必要があります。受理されないということはほぼありませんが、放棄する具体的な内容を記載しないと許可されないケースもあるので注意しましょう。
申述書を家庭裁判所に提出
申述書の提出先は『家庭裁判所』です。家庭裁判所で受理されると、2週間以内に『照会書』が送られてきます。この照会書に必要事項を記載して、裁判所に送り返しましょう。
照会書を送ったあとに問題がなければ『相続放棄申述受理通知書』が自宅に送付されてきます。この通知書を受け取ったら相続放棄が完了です。
照会書については次章で詳しく解説していきます。
相続放棄は、期限内に家庭裁判所へ申し立て受理されることが必要です。手続きの大まかな流れ、書類を提出する裁判所の場所はどこかを説明します。ほか...
(3)相続放棄の手続き 照会書の提出
相続放棄は申請したあとに送られてくる照会書に回答を書き、その申請が通れば完了になります。
照会書とは
家庭裁判所に相続放棄の申述書を送って受理されると、相続放棄照会書』が返送されてきます。相続放棄をするにはいくつかの条件を満たす必要があり、照会書に対する回答を記載し返答することも必要です。
相続放棄をすると『申請した人は、はじめから相続人ではなかった』という扱いになります。相続順位に関して大きな影響があるため、この書類の返答は非常に大切です。
また、相続から3カ月以上が経ってから放棄を申請したときには『なぜ申請が遅れてしまったのか』を説明する機会にもなります。
こういったいくつかの項目を家庭裁判所が正確に把握するための書類です。照会書の記入を適当にしてしまうと申請が受理されないこともあるので気をつけましょう。
照会書に記入して返送
相続放棄照会書が送られてきたら、まずは自分の意思で相続放棄をしようとしているのかを記入します。別の人に手続きを依頼した場合は、その人の氏名や関係性を書いていきましょう。
照会書の中で『遺産の一部でも相続する』ような曖昧な回答をしてしまうと、相続放棄ができなくなってしまうこともあります。事実に基づいて記載していきましょう。
そのほかにも
- なぜ放棄をしようとしているのか
- 遺産相続について知った時期
- 相続放棄をする理由
などいくつか回答する必要があります。すべて記入し終わったら、家庭裁判所に返送しましょう。照会書についてもしわからない箇所があれば、相続に詳しい専門家に相談するのも1つの手です。
受理されたら通知書が交付
紹介書の回答が受理されると、裁判所から『相続放棄申述受理通知書』が送られてくるので、これを受け取ったら相続放棄の手続きは終了となります。
1点気をつけるべきポイントは、相続放棄申述受理通知書は『再発行ができない』というところです。紛失してしまっても再度同じものは発行できません。
必要なら証明書を申請
『相続放棄申述受理通知書』は相続放棄が完了したことへの通知書なので、相続を放棄したことへの証明書ではありません。
債権者や役所に相続放棄したことを伝えたいときなどには『証明書』が必要になるケースがあります。そのときには家庭裁判所で証明書の申請をしなくてはなりません。
証明書は通知書と違い『何度でも再発行が可能』です。通知書がなくなってしまったときや、通知書では認められない場合は、証明書の発行を申請して利用することができるでしょう。
相続放棄は自分でできる?
相続を放棄しようと思ったときに気になるのは、親族からの意見です。親族から反発があると相続放棄ができないかもしれないという心配もあるでしょう。
この章では相続放棄は個人の判断でできるのかどうかを解説していきます。
自分ですることは可能
相続放棄は相続人の権利です。ほかの相続人の印鑑なども必要がないため、自分1人で申請を行うことができます。相続関係で親族と揉め事があり反対されても、相続放棄の申請自体には影響はありません。
ただし、相続人全員が一緒に相続放棄をしたほうが金額的に安く済むこともあるので、話し合いをしてみるのもよいでしょう。
代筆を頼むなら司法書士
申請書の作成が大変で代筆を頼むのであれば『司法書士』に依頼することをおすすめします。弁護士に頼むよりも、費用が安く済みます。
ただし、司法書士に頼む場合、家庭裁判所への提出や電話での応答などはすべて本人が行うことになります。司法書士に任せられるのは、あくまで『申請書の代筆のみ』です。
代行を頼むなら弁護士
弁護士に申請全般の代行を依頼すれば、書類の作成から提出、裁判所への連絡などもすべて任せることが可能です。
また、債権者からの問い合わせが合ったときにも、弁護士に連絡がいくようにすることができるでしょう。
相続放棄は誰に相談するのがいい?
相続放棄を実際に行っている人は、身近にはそれほど多くはないでしょう。なかなか相談できる人も少ないため、プロにお願いするのが安心です。そういったときに、誰に依頼するのかをあらかじめ知っておくとよいでしょう。
司法書士と弁護士の違い
相続放棄に困ったときに、誰かに依頼することを考えるかもしれません。そのような場合は弁護士や司法書士に依頼することになります。それぞれ専門分野違いを把握しておくことも大切でしょう。
司法書士は不動産登記の専門家です。遺産相続で土地や建物などの所有者が移る場合『所有権移転登記』をしなくてはなりません。こうした登記申請を司法書士は代わりに行うことができます。
また、最近では簡易裁判所での代理権も持つようになったため、相続放棄をするための書類作成は司法書士に代理で依頼することができます。
弁護士はあらゆる法律問題を取り扱う専門家です。相続関連はもちろんのこと、医療過誤事件、税務訴訟、交通事故、借金問題、慰謝料請求の問題など、さまざまな相談ができます。
弁護士は簡易裁判所だけではなく、地方裁判所や家庭裁判所、高等裁判所などのすべての裁判所で代理が可能です。相続放棄において家庭裁判所への申請なども弁護士にお願いできるでしょう。
弁護士と司法書士と混同してしまいがちですが、業務範囲が大きく違います。司法書士は登記の専門家で、弁護士は法律のプロと覚えておきましょう。
税理士には相談できない
税理士は税を扱うプロで、節税方法や税務調査などについて相談することが可能です。相続については税理士のみ『税務申告に関する代理権』を持っています。
税理士は税金の専門家なので、相続税については相談できるでしょう。相続税は場合によっては相当な高額になるため、節税するためには税理士に頼るのがおすすめです。
ただし、弁護士と税理士はまったく領域が違うため、相談できる内容がまったく変わってきます。税理士には書類の作成や申請を依頼することはできないので注意しましょう。
相続放棄を自分でするのではなく、依頼した方がいい場合
相続放棄は自分1人でもできるため、弁護士や司法書士に依頼する必要があるのかどうかをしっかりと把握しておきましょう。ここでは依頼をした方がよいケースについて、いくつか解説していきます。
まずは『相続する人間同士で争いがある』場合です。相続で借金があったり、親族の人間関係にトラブルがあったりするときには、自分で全て解決しようとせず専門家に相談するのがよいでしょう。
次に『多額の借金がある』場合です。債権者から催促の連絡が来る可能性があるので、相続の中に闇金などからの借り入れがあったときは、弁護士に依頼しましょう。
司法書士は依頼者の代わりに交渉する代理権がありません。借金などのトラブルについては、交渉によって取り立てを止められる可能性のある弁護士に相談するようにしましょう。
一方で、弁護士ではなく司法書士に依頼したほうがよい場合もあります。相続放棄の手続きのための書類を揃えてもらうなどの登記関係は、弁護士より費用が安くすむケースがあるからです。
相続放棄でよくある疑問
ここまで相続放棄について解説してきましたが、まだまだわからないことが多くある方もいるかもしれません。
「手続きを生前にできるのか」という問題や「相続放棄をしてもらったらお礼が必要か」というような、相続放棄についてよくある疑問について1つずつ説明していきます。
手続きを生前にすることはできる?
相続放棄の申請は相続開始前にすることはできません。相続放棄は「相続開始後に一定の手続きをした場合に効力を生ずるもの」と定められているからです。
相続が始まる前に申請をしたり相続人同士の合意があったりしても効力がないので、注意する必要があります。
相続放棄の手続き中に借金を請求されたら?
相続放棄の手続き中に借金を請求されたときには、支払うつもりがないことをはっきりと伝えましょう。
また、相続放棄が完了していることは金融機関には伝わらないので、放棄の手続きが済んだことを申告することも大切です。
借金関連について1つ注意しなければならないのが『単純承認』です。単純承認されてしまうと、相続をしたものとみなされ放棄申請が受理されなくなってしまいます。
例えば、相続放棄の手続きしている途中で遺産などから借金を支払ってしまうと、単純承認とみなされてしまうので注意しましょう。
負債が理由の相続放棄にお礼は必要?
両親が借金を抱えていたため、親族に相続放棄をお願いするケースもあるでしょう。そういった場合に、お礼や迷惑料を支払った方がいいか迷うことがあるかもしれません。
こういった問題に正解はありませんので、ここではあくまで1つの意見として解説していきます。
自分たちが相続を放棄して、次順位の相続人に相続放棄が必要になることもあるでしょう。そいうったときにはお礼をする必要はあまりないでしょう。
法律にのっとって放棄をしているので、何も問題はありません。ただし、関係を良好にしておくためにも、放棄する意思は事前に伝えておいたほうがよいでしょう。
また、妻や子どもに一部を相続させるために相続してもらうこともあります。こういったケースでは、ほかの親族に相続放棄をしてもらって財産を得るため、協力してくれた人にお礼をしたほうがよいでしょう。
ただし、お礼と言っても菓子折りとお礼状を渡す程度で大丈夫でしょう。現金を渡す文化というのは日本に馴染みがなく、あくまでも気持ちを伝えることが大切です。
まとめ
相続放棄という権利があるということだけでも知っていると、いざというときに助かります。遺産を相続するときには、まずは資産の確認をしておきましょう。
また、相続放棄は1人でもできますが、親族とよい関係を築いていくためにも、しっかりと話し合いをすることが大切です。
いつ遺産を相続するタイミングがやってくるのかは誰にもわかりません。いざというときに自分自身や家族のためにも、相続放棄のやり方をしっかりと覚えておきましょう。