退職金は長年の勤務に対して会社から恩給的に支給されるもので、多くの方の退職後の生活費を支えています。そのため、退職金は給与所得とは区別された退職所得として課税され、優遇措置を受けられます。普段受け取っている給与は源泉徴収で税金を納めていますが、退職金の場合はどうなるのでしょう。確定申告は必要なのでしょうか。ここでは退職金の税金についてご説明します。
目次
退職金にかかる住民税の税率
通常の給与所得と同様に、退職金を受け取った場合にも住民税を支払わなければいけません。退職金には市町村民税6%と都道府県民税4%を合わせた一律10.21%の住民税が課税されますが、課税方式が異なります。
給与所得とは分離して課税される
通常の給与は総合課税で他の所得と合算した金額に対して課税される仕組みになっていますが、退職金は分離課税方式が採用されています。分離課税とは他の所得と合算せずに、その所得のみに課税する方式です。退職金の税率だけが低く抑えられ、優遇されていることになります。
退職所得控除とは
退職金に対する住民税は退職金額から退職所得控除を引き、これを2分の1にして求めた金額に課税をするようになっています。退職所得控除は勤続年数により受けられる金額が変わり、退職所得控除を計算する方法も法律で定められています。
確定申告は基本必要ない
通常、退職する前には退職所得の受給に関する申告書を提出します。こちらを提出すると、通常の給与と同じように住民税と所得税が源泉徴収された状態で退職金が支給されます。そのため、確定申告は基本的に必要ないと考えて問題ありません。
『退職所得の受給に関する申告書』はお忘れなく
退職所得の受給に関する申告書は市町村役場で入手可能です。申告書には氏名や現住所、マイナンバー、元旦時点の住所、退職金の支給日、退職の扱い、勤続年数を記入します。記述された内容から会社側で退職所得を求め、所得税と住民税の源泉徴収額を計算し、退職金額を確定します。
ただし、退職所得の受給に関する申告書を提出していないときは、給与所得と同じように20%の税率がかかる点に注意しましょう。また、退職金の支払日に間に合うように提出できなければ処理が間に合わないため、退職控除が受けられなくなってしまいます。忘れずに提出しましょう。
確定申告で還付金がもらえる可能性もある
退職金をもらった場合、基本的に確定申告は不要ですが、確定申告を行うことで還付金を受け取れる場合もあります。
『退職所得の受給に関する申告書』を提出しなかった場合
まずは、退職所得の受給に関する申告書を提出しなかった場合です。提出していない場合は、20.48%の税金が引かれています。申請をすると還付金を受け取れるケースが大半ですから、忘れていた方は確定申告をしましょう。退職金の確定申告は5年前までなら遡って申請できます。
年の途中で退職する場合
年の途中で退職し、その後再就職をしなかった場合も確定申告をした方が良いでしょう。年の途中で退職した場合、受け取った給与は少ないはずです。それに年末調整もされていないため、各種控除も反映されていません。この場合、給与所得から所得控除を差し引いても、所得控除の金額の方が大きく全ては引ききれません。
そのため、所得控除が余っている状態になります。この所得控除の余った金額分を退職所得から引いて税額を計算できるため、所得税が少なくなり確定申告すると還付金を受け取ることが可能です。
様々な控除について
給与所得は収入から必要経費を引き、さらに給与所得控除を差し引いたものに税率をかけて求めます。このときに適用される給与所得控除は、年収に合わせて税率が設定されています。
控除の計算例
180万円以下の場合は収入金額の40%、180万円から360万円以下なら収入金額+18万円、360万円から660万円以下なら収入金額×20%+120万円、1000万円を超える場合は220万円です。
収入が400万円のケースでは、収入金額は360万円から660万円以下の給与所得控除額で計算することになるので、給与所得控除は400万円×20%+54万円で134万円になります。そして、400万円から134万円を引いて求めた金額の266万円が給与所得ということになります。
控除の例
さらに、この金額に14種類ある所得控除の中から適用できる控除を引いて税率をかけると所得税額が求められます。14種類ある所得控除の中で代表的なものは基礎控除の38万円や配偶者控除、健康保険料控除などです。ふるさと納税で有名になった寄付金控除もこちらに含まれます。
控除額が給与所得を上回っている場合の計算例
3月で退職し、受け取った給与が90万円だったとします。給与所得控除が65万円、配偶者控除38万円と社会保険料控除30万円の控除を受けていたとして、これらに基礎控除の38万円を加えた合計171万円が控除額です。給与所得が90万円ですから、81万円も控除額が上回ることになります。そのため、この差額は退職所得に反映することが可能です。
勤続年数25年、退職金を1500万円と仮定して、まずは退職金控除を求めます。退職金が1500万円なら退職控除は800万円+70万円×(勤続年数25年-20年)=1150万円です。
そして、退職金1500万円-退職控除1150万円=350万円×0.5で175万円が退職所得になります。控除額から給与所得を引いた差額分は退職所得から差し引けるため、退職所得175万円-差額分81万円=94万円が年間所得の合計です。
195万円以下の課税所得に対する税率は5%ですから、年間の所得税額は47,000円になります。この金額よりも所得税の納付額が大きい場合は還付が受けられます。
ちなみに住民税に関しては所得税と課税される仕組みが違い、所得控除が適用されないため確定申告しても還付は受けられません。
まとめ
退職金は今まで働いてきた証とも言うべきものですから、事前に退職金に関することは知っておきましょう。しっかりと準備しておくと、手続きもスムーズに進めることができます。また、退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、確定申告は原則不要ですが、退職金を受け取った後に確定申告をすると還付金が受け取れる場合もありますので心当たりのある方は忘れずに行いましょう。