退職金にはどのような種類があるのでしょうか?現在日本で多く導入されている退職金制度を中心に、退職金の相場や計算方法などを解説します。退職はまだまだ先と思っている方も、将来の資産計画の参考にお役立て下さい。
退職金とは?
退職金を一言でいうと、会社を退職するにあたって受け取ることのできるお金です。老後の大切な資金源となるため、金額やかかる税金、受け取りの時期がとても重要になってきますね。
一方で、退職金がもらえる場合とそうでない場合があるのをご存じですか?退職金とはどのようなお金なのかを詳しく見ていきましょう。
退職金は法律で定められていない
退職時、退職金がもらえるのは当然と思っていませんか?実は、退職金制度は、会社が必ず設けなければならないものではありません。
退職金の有無は、自分が勤めている会社が退職金制度を導入しているかどうかで決まります。
導入する場合は、適用される労働者の範囲や退職金の支給要件、額の計算及び支払の方法、支払い時期を、就業規則に明記することが定められています。
平成25年の『就労条件総合調査結果の概要』によると、退職金制度を導入している割合は、従業員数が1000人以上の企業で93%以上、30人から99人の企業は72%という結果が出ています。
つまり、大きな企業ほど退職金制度を整備しているということです。
4年以上勤めないと退職金はもらえない?
退職金の相場を見ると、勤続年数が長ければ長いほど退職金が多い傾向が分かります。
退職金が受給できる勤続年数については、「3~4年以上勤めないと退職金がもらえない」とも言われていますが本当でしょうか?
東京都産業労働局の調査によると、自己都合退職の場合「勤続年数が3年以上でなければ、退職金を出さない」という企業が半数を占めることが分かっており、3年という勤続年数はひとつの区切りとなるようです。
といっても基本的には退職金の支給要件は各会社によって異なるので、自分の勤めている会社については確認しておくことが必要です。
退職金にも税がかかる
退職金は老後生活を支える重要な資金源ですので、「税金はかかるのだろうか」「かかるとすれば、どのくらいかかるのだろうか」と不安に思う人は少なくないでしょう。
結論から言うと、退職金には『所得税』と『住民税』がかかります。しかし、定年退職時の『退職一時金』は、長年の功労を労う意味と老後の生活資金になることが考慮されているので、通常の税率よりも優遇されているのが特徴です。
優遇される額(非課税枠)は、勤続年数や退職金額によって異なりますので、所得税や住民税がどのくらいかかるのかをシミュレーションしておくとよいでしょう。
退職金の受け取り方法や計算の仕方は、次で詳しく解説していきます。
会社で積み立てる内部保留型
退職金は、お金の準備の仕方や支払い方法によって幾つかの種類に分けられます。その1つが、退職金の資金を会社内で留保する『内部留保型』です。
ここでは主に、『内部留保型』で支払われる退職金について解説します。
退職給付制度は2種類
そもそも退職給付制度は、大きく分けて『退職一時金』と『退職年金』の2種類に分類できます。
『退職一時金』は、退職金の資金を会社内で貯めて用意するもので、受け取る時は『一括』で受け取ることができます。
雇用側から見れば、外部積立を一切行わないため、資金繰りの面でマイナスの影響を与えることがありますが、受給者にとっては大きな税制優遇枠があるのがメリットです。
一方、『退職年金』は『企業年金』とも言い、雇用者は信託銀行や生命保険など外部に掛け金を積み立てて退職金を用意します。また受け取りは、年金のように『分割』となります。
受給者としては、まとまったお金は入りませんが、継続的に安定した収入が得られるというメリットがあります。
退職一時金制度の主に計算方法は4種類
『内部留保型』で用意される『退職一時金』は、主に以下の4種類の計算方法で算出されます。
- 定額制
- 基本給連動型
- 別テーブル制
- ポイント制
『定額制』は、基本給などに関わらず、『勤続年数』に応じて金額を決定する方法です。勤続年数が長いほど金額が多くなります。
『基本給連動型』は、いわゆる『年功型』のことで、『退職時の基本給×支給係数(企業により異なる)』を基本として算出します。
『別テーブル制』は、基本給と連動していないことが大きな特徴です。退職時の等級を反映させ、『勤続年数に応じた基準額×等級別や役職別に定めた係数』で算出します。
『ポイント制』は、勤続年数や会社への貢献度を、バランスよく計算できる方法です。貢献度に合わせて会社が定めた評価ポイントを付与し、『ポイント単価×累計ポイント数』で算出します。
退職所得控除額は勤続20年以上で変わる
退職金に税金がかかることはお話しましたが、所得税を計算する際に、退職金額から差し引かれる『退職所得控除額』というものがあります。
これは勤続年数によって額が定められており、20年以下か20年を超えるかで計算方法が大きく変わります。
- 勤続年数が20年以下:40万円×勤続年数
- 勤続年数が20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
つまり、税金は勤続年数が長い人ほどお得ということができますね。
企業や共済を設立し、外部で貯める型
会社内部で退職金を積み立てる『内部留保型』に対し、信託銀行や生命保険など会社外部で積み立てして退職金を準備し、支払うのが『企業年金型』や『共済型』です。
その詳しい内容やメリットについて解説します。
企業年金型
日本の年金制度には『国民年金』と『厚生年金』がありますが、会社が用意する『企業年金』は、国民年金と厚生年金の上に位置する、いわゆる『3階建ての部分』として、退職後の生活を大きく支えます。
『企業年金型』では、会社は退職金を長期にわたり継続的に支払います。支払い期間と金額については、退職年金規定などで定められています。
『企業年金』はさらに以下の3つに分けることができますが、現在は、『確定給付企業年金』と『確定拠出年金』がメインとなっています。
- 厚生年金基金
- 確定給付企業年金
- 確定拠出年金
『確定給付企業年金』とは、給付額が先に決定され、企業が年金資産を一括管理・運用する方法で、企業によって保証された決まった金額が払われます。
『確定拠出年金』は拠出額(掛け金)を決定し、従業員が年金の運用方法を決める方法で、運用実績に応じた額が支払われるのが特徴です。
中小企業に多い共済型
中小企業に多いのが『共済型』よばれるもので、これは独自で年金制度を設けるのが難しい中小企業を考慮した仕組みです。
企業が掛け金を支払い、共済に資産の積立と運用管理などを任せる仕組みで、国が掛金を一部助成するといったサポートも含まれています。給付は、退職者が共済に請求する形となります。
『中小企業退職金共済(中退共制度)』や『特定退職金共済』などが該当します。
国の助成もありメリットが多い
共済型は、国の援助が大きい制度です。たとえば、『中退共制度』では、新規加入時、従業員1人につき最高6万円を国が減額します。
掛金は全額非課税となり、資本金が1億円を超える法人は、法人事業税に外形標準課税が適用されるというメリットがあります。
手続きや掛け金の管理が簡単なため、トラブルが少ないことも特徴に挙げられるでしょう。
自分で決めて運用できる確定拠出型
『企業年金型』の中でも、近年特に注目が集まっているのが、『確定拠出型』です。これは自分で年金を準備する仕組みで、『公的年金を補完する』という意味合いがあります。
ゆとりある老後を目指したいのは誰でも同じ。しかし、国から給付される年金だけに頼っていては心もとないと感じる人が増えているのでしょう。
上場企業の導入が増えている
『確定拠出型』は、上場企業の導入が増えているのが特徴です。
先に述べたように、確定拠出型では会社が従業員に掛け金を支払い(掛け金拠出)、従業員はその掛け金を元に自分で資産を運用します。
個人の責任で運用するスタイルが年々増加傾向になる背景には、「自分で資金を確保しなければ安定した老後が送れない」との危機感を持つ人が増えていることや、「年金額を企業が保証する」リスクを避けたい企業側の思惑があります。
メリットとデメリット
『確定拠出型』にはメリットと同時に、もちろん考えておくべきデメリットもあります。
たとえば、従業員に支払われる掛け金は給与ではないため非課税扱いとなり、運用や給付時には税制上の優遇措置が適用されます。
市販の投資信託よりも、運用コストや手数料の安い商品が利用できるといった利点もあるでしょう。
一方で、個人の資金運用の能力が問われるのが確定拠出型です。本人の能力次第で退職金を大きく増やすこともできれば、反対に思ったような金額が生み出せない場合もあるのです。
また、積み立てたお金は、原則的に60歳まで引き出すことはできません。コツコツと資産を形成していくことが必要となります。
退職金の相場とは?
さて、気になるのが退職金の『相場』です。もちろん相場といっても個人や企業の状況によって異なりるので、自分の状況を考慮した上で考えてみましょう。
相場は定年退職と自己都合退職で違う
退職金は『会社都合(定年退職含む)』と『自己都合』による退職では、金額に1.5~2倍もの差がみられます。もちろんこれは、企業の規模によっても変動します。
たとえば大手企業に10年勤めて退職した30代の場合、退職金の平均は310万円(会社都合)前後・190万円(自己都合)です。
一方、中小企業の場合、同じ条件でも150万(会社都合)・115万(自己都合)と、大手よりも総額が80万~160万ほど少なくなります。
また学歴によっても開きがあり、高卒と大卒では、平均50万~200万円ほどの差がみられます。
5年、8年、10年と勤続年数で増える
さらに勤続年数も大きく関わってきます。基本的に、勤続年数が長いほど退職金は増加します。
たとえば、勤続年数5年の若手社員の退職と、10年勤めたベテラン社員の退職では、退職金に120万~200万円ほどの開きがあります。
中小企業・大手企業に関わらず、勤続年数が10年を過ぎると、支払われる退職金の率がグッと高くなる傾向があります。
まとめ
退職金は、準備の仕方や給付方法など会社によって大きく異なっています。さらに近年では、従業員個人に資金運用を委ねる方法を導入する企業も増えています。
退職後の生活において、安定した資金源になる退職金ですが、「退職金だけでは余裕のある老後が送れない」と考える人も増加しており、自分の人生設計を考えて、資金運用に関する知識を身につけていくことが望ましいでしょう。