退職金にかかる所得税の控除枠や確定申告について。

退職金には給与所得や年金等と同様に所得税がかかりますが、受け取る金額が高額になりがちなため、税金の額が気になるところです。ただ退職金の意味の一つとして、長年働いたことをねぎらう目的があることから、通常の給与所得に比べて税金が安くなるよう計算されます。この記事では、退職金にかかる金額ごとの所得税率や復興特別所得税について解説します。

退職金にかかる所得税率

退職金にかかる所得税を計算する際は他の所得と合算せず、退職金単体で税額を算出します。

原則として、源泉徴収前の退職所得金額から退職所得控除額を引いた額の半額が課税所得金額となります。

ただし、勤続年数5年以内の国家公務員・地方公務員や取締役・執行役員等の法人役員の場合は、源泉徴収前の退職所得金額から退職所得控除額を引いた額すべてが課税所得金額となります。

課税所得金額に所得税率を掛けた後、税率に応じた税額控除を行ったものが所得税額となります。

所得税の税率は課税所得金額に応じて、5%~45%の7段階で設定されています。一例をあげると、課税所得金額が195万円以下であれば5%、330万円を超えて695万円以下であれば20%の税率です。また、課税所得金額が195万円を超える場合には、97,500円~4,796,000円の6段階の控除額が設けられています。

所得税とは別に、東日本大震災の復興財源を確保する目的で2037年12月31日までは復興特別所得税も徴収されます。税額は所得税額の2.1%です。所得税と復興特別所得税を合計し、100円未満の端数を切り捨てた後に納税額が確定します。

退職金にかかる所得税の控除枠

退職金にかかる所得税には、勤続年数に応じた所得控除額が設けられています。所得控除額は、

  • 勤続20年以内の場合は40万円×勤続年数
  • 勤続20年を超える場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)

計算式から、勤続20年を超える部分の控除額が多くなっていることがわかります。同じ年に2か所以上から退職金を受け取る際は、最も長い勤続年数で退職所得控除額を計算します。最も長い勤続期間に他の勤続期間と重複しない期間がある場合には、その重複しない期間も勤続年数に加えます。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げます。

例えば、A社で2010年1月~2018年3月まで13年3か月間勤務し、B社で2018年1月から2018年7月まで7か月間勤務していた場合は、A社での勤続期間にA社とB社で重複しない期間の4か月を加えた13年7か月が勤続年数となりますが、端数を切り上げて勤続年数を14年とします。

また、障害者になったことが直接の理由で退職した場合は、上の計算式で求めた額に100万円を加えた額が退職所得控除額となります。

退職金の申告書をお忘れなく

退職金を受け取る際は、退職所得の受給に関する申告書を会社に提出します。この申告書の提出が退職所得控除の条件となるからです。退職手続きの際に会社から申告書の記入を案内されるのが一般的ですが、会社からの案内がなければ自分から提出するようにしましょう。

申告書の用紙は、国税庁のホームページからダウンロード可能です。退職所得の受給に関する申告書を提出しない場合は、退職金全体の20.42%(復興特別所得税を含む)分が源泉徴収されてしまいます。

例えば、退職金が100万円の場合は20万4200円が源泉徴収されることになります。

源泉徴収された場合でも、翌年に確定申告を行うことで払いすぎた所得税の還付を受けることは可能です。退職所得の受給に関する申告書を提出した場合でも、年の途中で退職後に再就職しなかった場合や不動産所得や事業所得などの他の所得が赤字の場合には確定申告を行うことをおすすめします。

なお、給与所得の源泉徴収票とは別に、退職所得の源泉徴収票が発行されます。

退職金所得税の計算例

所得税の計算例を3つご紹介します。

① 勤続4年の会社役員が1,000万円の退職金を受け取った時、納税額は132万3,000円となります。

計算方法としては、勤続5年以内の会社役員は退職所得控除後の全額が課税対象となるため、課税所得は840万円です。

課税所得840万円に対する所得税率は23%、税額控除は63万6,000円ですから所得税額は129万6,000円、復興特別所得税額は所得税額の2.1%に相当する27,216円です。

所得税と復興特別所得税の合計は132万3,216円ですが100円未満の端数を切り捨てるため、132万3,000円を納税する計算になります。

② 勤続19年と3日の会社員が2,000万円の退職金を受け取った時、納税額は78万8,000円となります。

勤続年数の端数は1年に切り上げるため、20年の勤続年数で退職所得控除額を算出します。課税所得600万円には20%の所得税率と42万7,500円の税額控除が適用されます。

所得税額は77万2,500円、復興特別所得税額は16,222円です。所得税と復興特別所得税の合計は78万8,722円ですが100円未満の端数を切り捨てて、78万8,000円を納税します。

③ 勤続48年の人が退職金を3,000万円受け取った時、納税額は6万1,000円となります。課税所得120万円の所得税率は5%なので所得税額は6万円、復興特別所得税額は1,260円となり、100円未満の端数を切り捨てた6万1,000円を納税します。

まとめ

退職所得の所得税額は他の所得とは独立して計算されますが、不動産所得や事業所得の赤字を差し引くこと(損益通算)は可能です。損益通算は給与所得・配当所得・雑所得の順に行うことになりますが、適用税率の変更や還付金発生の可能性があります。

退職金の受取時に差し引かれる税金を考慮に入れて資金計画を立てると共に、給与以外の所得がある場合には損益通算について税務署や専門家に相談することをおすすめします。