給料やボーナスと同じように、退職金にも住民税が課税されます。ただし退職金には、退職後の所得保障や長年の勤務に対するインセンティブといった性質があるため、他の所得と比べて税金の負担が軽くなる計算方法がとられています。受け取る退職金に対する住民税の割合や、住民税の支払方法・節税の可能性について考えていきましょう。
退職金にかかる住民税税率
退職金は住民税の課税対象となりますが、他の所得と合算せずに独立して算出する分離課税が適用されます。計算式は、次のとおりです。
退職金にかかる住民税 = 退職所得金額 × 税率10%(内訳は、市町村民税6%・都道府県民税4%)
所得税とは異なり、退職金の額にかかわらず一定の税率となっています。退職所得金額は、次の計算式によって算出します。
退職所得金額 = ( 受け取った退職金 - 退職所得控除額 ) × 2分の1
勤続年数が5年以内の法人役員や国家公務員・地方公務員の場合は、2分の1を掛けずに収入金額を算出します。退職所得控除額は、勤続年数により計算方法が異なります。
(勤続年数が20年以下場合)
退職所得控除額=40万円×勤続年数
ただし、最低でも80万円は控除されます。
(勤続年数が20年を超える場合)
退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × ( 勤続年数 - 20年 )
勤続年数に1年未満の端数があれば、たとえ1日でも1年に切り上げます。
住民税はいつ払う?一括徴収の方法
退職金にかかる住民税は、給与支払者を経由して一括徴収によって支払うこととされています。そのため、支払われる退職金から住民税全額が一括徴収された上で、給与支払者が退職金支払月の翌月10日までに市区町村に納めます。したがって、退職金を受け取る側にとっての住民税の支払時期は、退職金の支給日といえます。
退職金が分割して支払われる場合は、支払回数ごとに分割して住民税を特別徴収してもらうことも可能です。
また、退職する場合は、5月までに特別徴収される予定の住民税額を、最後の給与から一括して差し引かれることが原則となります。差し引かれる予定の住民税額が最後の給与額より多い場合は、その差額については普通徴収の対象となり、後日送付される納付書を使って自分で納めることになります。
その差額を退職金から支払いたい場合は、事前に勤務先の担当者へ相談することで、特別徴収扱いにしてもらうことも可能です。なお、本人の同意なく特別徴収扱いにすることは、賃金の全額払いの原則より認められていません。
特別徴収と普通徴収
給与所得者の場合は、住民税を特別徴収という方法で、給与支払者を経由して納めています。住民税の特別徴収は、所得税の源泉徴収義務と共に給与支払者に対して法律で義務づけられています。ただし、他の勤務先で住民税が特別徴収されている場合、退職金にかかる住民税は普通徴収扱いにしても差し支えないとされています。
特別徴収の具体的方法は、前年度の所得に応じた住民税額を12分割した上で、6月から翌年5月にかけて給与支払者が毎月の給与から住民税を差し引き、給与支給月の翌月10日までに市区町村に納める方法です。1月1日から4月30日までの間に退職する場合は、5月までの住民税が一括徴収として差し引かれます。
一方、退職後は住民税の徴収方法が普通徴収に切り替わるため、自分で住民税を納めることになります。前年度の所得に応じて算出された住民税額を、毎年6月・8月・10月・12月又は1月の4期に分けて納めますが、4期分を一度に納めることも可能です。
住民税の納付の仕方
普通徴収では、現金又は口座振替のいずれかの方法で住民税を納付します。現金の場合は、住所がある自治体の税務課又は金融機関に納付書と現金を持参して納付します。納付書1枚あたりの金額が10万円を超える場合は、本人確認書類もあわせて持参します。
金融機関では、10万円を超える現金振込の場合に本人確認が求められるためです。納付書にバーコードが印刷されている場合は、コンビニ支払も可能です。
口座振替の場合は、事前に自治体への手続きが必要です。必要書類を記入して提出する方法と、自治体窓口でキャッシュカードを用いて手続きを行う方法とがあります。手続きが完了すると、住民税の自動引落しが開始されます。
納め忘れを防止できる点がメリットとなる一方、引落しができなかった場合には延滞金が発生する場合があるため、事前の残高確認が大切です。最近では、クレジットカードで住民税を支払うことができる自治体が増えています。支払う額に応じて決済手数料がかかる場合がある点に留意が必要です。
住民税の計算例
退職金の支払額が1,000万円の時、勤続20年の場合の住民税額は10万円となります。
退職所得控除額…40万円×20年=800万円
退職所得金額…(1,000万円-800万円)×2分の1=100万円
住民税額…100万円×税率10%=10万円
退職金の支払額が2,000万円の時、勤続30年の場合の住民税額は25万円となります。
退職所得控除額…800万円+70万円×(30-20)年=1,500万円
退職所得金額…(2,000万円-1,500万円)×2分の1=250万円
住民税額…250万円×税率10%=25万円
退職金の支払額が3,000万円の時、勤続30年の場合の住民税額は75万円、勤続40年の場合の住民税額は40万円となります。
勤続30年の場合の退職所得控除額…800万円+70万円×(30-20)年=1,500万円
退職所得金額…(3,000万円-1,500万円)×2分の1=750万円
住民税額…750万円×税率10%=75万円
勤続40年の場合の退職所得控除額…800万円+70万円×(40-20)年=2,200万円
退職所得金額…(3,000万円-2,200万円)×2分の1=400万円
住民税額…400万円×税率10%=40万円
したがって、同じ退職金の額でも勤続年数が長ければ、それだけ住民税の額が少なくなるといえます。
ふるさと納税で節税できる?
ふるさと納税では、毎年1月から12月までの自治体に対する寄附金総額のうち、2,000円を超える部分について、所得税や個人住民税の税額控除を受けることができます。例えば、3万円を自治体に寄付した場合は、最大28,000円分が今年度の所得税や次年度の住民税から差し引かれます。ただし、年収や家族構成によって、ふるさと納税を行う際の控除上限額が設定されている点に注意が必要です。
税額控除を受けるためには、確定申告又はふるさと納税ワンストップ特例制度の申請を行う必要があります。確定申告を行う場合は、最初に所得税の税額控除が行われ、その残額で住民税の税額控除が行われます。
一方、1年間で5自治体以内の寄附の場合には、ワンストップ特例制度の利用が可能ですが、住民税の税額控除だけが行われ、所得税の税額控除は行われません。また、退職金にかかる住民税については分離課税であることから、ふるさと納税の寄附金控除の対象とならないと地方税法によって定められています。
したがって、ふるさと納税での節税を考える際には、2段階で税額控除を受けられる確定申告が有利といえます。
まとめ
退職金を受け取る際、住民税と所得税を合わせると数十万円が差し引かれることになります。一方、ふるさと納税の税額控除制度を活用すると、控除上限額の範囲で、納めた所得税の還付や次年度の住民税額の軽減を受けることができます。
加えて、自分で選んだ特産品を受け取ることも可能です。税金面のメリットを考えながら、退職時期や退職後のマネープランを検討してはいかがでしょうか。