退職金の前払いと確定拠出年金。それぞれのメリット・デメリット

いくつもの企業を転職しながらキャリアアップを図るという働き方が一般的になりつつある現代の流れを受けて、退職金の前払い制度を導入する企業が増えています。前払い制度はどんなものか、また並んで注目を浴びている確定拠出年金についても気にしている方は多いでしょう。ここでは、退職金前払い制度の特徴や支給の方法、確定拠出年金やそのメリット・デメリットに関して解説します。

退職金の前払い制度について

前払い制度とは

退職金の前払い制度は、退職時に支払われる予定である退職金を、在職中に分割で前払いされる制度のことです。通常、退職金は勤続年数や在職中の給与額によってその金額が決定されます。これを月々支払われる給与に対して、上乗せをする形で毎月支払われるのがこの仕組みです。

なぜ前払いが生まれたのか

旧来は一度入った企業は定年まで在職するという働き方が一般的だったため、退職時に一括で支払われるというスタイルでも問題ありませんでした。しかし、近年では転職を繰り返しながらキャリアアップや働き方を見つめていく生き方へと移行していく時流となりつつあり、勤続年数によって退職金が支払われる旧来の制度は適合しなくなり出したのです。

退職金の前払い制度は、言わば働き方が変わった現代人のための新しい制度と言えます。また、退職時に一括で渡す本来の退職金制度の目的は「従業員の退職後の生活保障」ですが、このような前払い制度はボーナスや毎月の給与のプラスアルファといった、普段の生活保障・福利厚生の意味合いが強いです。

前払いを選択するタイミング

企業によっては異なりますが、入社時や入社してからしばらく経過した頃に選択するというケースが多い傾向にあります。もしくは、後述する「確定拠出年金の掛金」か、退職金の前払い金かを従業員に選択させる企業も少なくありません。利用する手順は企業が採用する制度によりますが、基本的には各企業ごとに自由な設計が可能とされています。

手順としては、入社時や数年後など区切りとなる瞬間で選択し支給が開始されるケースが多いですが、中には前払い金を一旦選択していても後から掛金へと変更可能な企業もあり、企業によってその形態が異なることを覚えておきましょう。

給与での前払い

退職金の前払い制度を選択した場合、給与型で支給を受けることとなります。給与型とはその名の通り、毎月の給与や賞与に対して上乗せする形で支給される形式です。これは、従来の退職金制度においては企業が従業員の退職時に渡すために毎月積み立てられていた金額を、そのまま月ごとに支払われるよう転化されたものと考えれば分かりやすいでしょう。

企業によって支払われる間隔や金額などは異なりますが、給与の5~10%ほど上乗せされて支給される傾向にあります。

扱いは給与所得

後述する確定拠出年金を選択した場合と異なり、給与型は現金で受け取る形となるため給与と同じ扱いです。そのため、月々の前払い金にも所得税や住民税といった税金や、社会保険料が発生することとなります。

年収が400万円の場合

まず所得税から見ていくと、たとえば年収が400万円であれば税率は5%前後となり、毎月前払い退職金を10,000円受け取るとして所得税の徴収額は500円です。次に住民税はどの地域に住んでいても10%発生するため、住民税は1,000円課税されます。そこからさらに社会保険料は給与の15%が差し引かれるため、社会保険料は1,500円です。

所得税と住民税、そして社会保険料によって差し引かれる金額を合わせると3,000円となります。企業から月々10,000円の前払い退職金を受け取った場合、3,000円が差し引かれるため実際の手取り額は7,000円になるということを覚えておきましょう。

手取り金額は要チェック

前払い制度を利用するか、確定拠出年金を利用するか迷っている方は、月々の家計の運用額はもちろん、これら税金や社会保険料を差し引いた手取金額もしっかり考慮して選ぶ必要があります。

確定拠出年金

確定拠出年金とは

確定拠出年金の掛金型の前払い制度は、老後の資産形成を目的に国によって作られた制度であり、60歳まで下ろせない代わりに、給与型とは異なり税金と社会保険料が一切かからないものです。受け取った資産を特定の口座に移して、自分自身で管理・運用するといった大きな特長があります。

年金という名こそ付いているものの、実際のところ受け取り時に一時金・年金のどちらかを選ぶことができるシステムです。

確定拠出年金の仕組み

確定拠出年金が支払われる仕組みは、資産運用の元手となるお金(掛け金)を企業が毎月拠出するものであり、月一回の頻度という点では給与型と共通しています。企業が契約を交わしている金融機関に従業員の個人専用口座を設置し、毎月この掛け金を支払う仕組みです。

確定拠出年金の掛け金型を採用している企業は、大抵は給与型の選択肢も用意していることが多く、支給される金額を運用するか(掛け金型)、運用せずに現金で受け取るか(給与型)を選ぶこととなります。企業が専用口座に掛け金を拠出した後は、従業員が運用方法を自らの意志で選べますが、何もかもが自由という訳ではありません。

企業と契約した金融機関それぞれに運用のラインナップがあり、その中からチョイスすることとなります。一般的には20種類前後のラインナップがあり、定期預金や投資信託、生命保険など幅広く用意されていることがほとんどです。

税制面での優遇が受けられる

給与型との大きな違いのひとつに、課税や社会保険料の差し引きがない点が挙げられます。給与型の場合は給料の上乗せで現金で受け取るため、所得税の課税対象となる上に住民税の負担も増えますが、確定拠出年金の掛け金型の場合は全額所得控除の対象となり税金がかかりません。

さらには利息や配当、運用益に対しても非課税となります。加えて定年を迎えていざ年金を受け取る際においても一時金は退職所得控除で、年金は公的年金等控除の対象となるため、税制上非常にメリットが大きいです。

前払いのメリット・デメリット

前払いのメリット

退職金の前払い制度を利用した場合のメリットとして、毎月の給与が高くなり生活が安定することが挙げられます。特に若年層においては中年層に比べて勤続年数が短いことから給与が低いことが多く、貯蓄額もさほど多くないケースは少なくありません。そういった場合、生活を安定させる上では非常に有用と言えるでしょう。

また、資格などキャリアアップのための勉強や、自己研鑽にお金や時間をかけたいという層にとっても先払いされることは有意義です。さらには、転職を考えている方や企業の倒産が不安な方にとって、非常に安心できる「保険」でもあります。

老後の費用に残したいという方も、苦しい時は切り崩して使ってあとは将来のために残す、といったように自分なりに運用計画を立てられるのも大きなメリットです。確定拠出年金のように、決まった運用プランしか使えないということもありません。

前払いのデメリット

反対に、退職金の前払い制度のデメリットとしては、法的に「給与」とみなされるため税金や社会保険料が発生して取り分が減ってしまう点が挙げられます。現金で支給されるため、毎月所得税と住民税、社会保険料が上乗せされた分課税されてしまうためです。

受け取るのは現金ではない確定拠出年金も、税制や社会保険料は控除されるため、総体的な受取金額の面では前払い制度・給与型よりも有利でしょう。退職時に一括で退職金として受け取った場合、公的年金等控除などでの大幅な税制優遇もあります。

老後のための蓄えについても自分で運用・形成する必要があり、マネープランも綿密に計画しておかなければなりません。企業によって金額や制度の詳細は異なるため、よく確認してから選択するようにしましょう。

まとめ

退職金の前払い制度は、資格など自己研鑽にお金を充てたり、転職時のリスクを下げる上で非常に有意義な制度です。ただし、給与に上乗せする形で現金で支給されるため、税金や社会保険料が差し引かれることを忘れてはいけません。税制の面で優遇されている確定拠出年金という選択肢もありますが、運用が自己責任である点、一定の年齢までは受け取れない点に注意してください。現在と将来のビジョンを明確にした上で選択しましょう。