気になる年金制度の仕組み。年金制度の基本をわかりやすくご紹介

若いうちは保険料を納め、万一の時や歳をとったときは受け取る側として、私たちの生活に大きな関わりを持つのが年金制度です。『払うほどもらえない』と言われることもある年金制度の仕組みや現状、職業別に加入できる制度についてまとめました。

年金制度の基本

公的年金を受け取るのは、年を取ってからと思っていませんか?公的年金は、老後の生活を支える大きな資金源のひとつです。しかし、公的年金を受け取れるのは、年をとってからだけではなく、加入者が障害状態になった時や、加入者の遺族となった時にも受け取ることができます。

また、加入方法も、サラリーマンや公務員として勤めるのか、フリーランスや自営として仕事をするのか、またはサラリーマンの妻で主婦業を中心としているのかで違います。まずは公的年金の基本的な仕組みから押さえましょう。

公的年金は20歳以上の加入が義務

公的年金の代表である国民年金は、20歳から60歳までの全員が加入しなければならないことになっており、加入者がどのような仕事のしかたをしているかで3つのグループに分けられています。

サラリーマンや公務員は第2号被保険者、第2号被保険者に扶養されている配偶者は第3号被保険者、第2号、第3号被保険者以外の自営業者やフリーランス、およびその妻などを、第1号被保険者と呼んでいます。

職業別に加入する年金や支払い方が異なる

加入する年金や保険料の納め方は、加入者がどのような職業についているかによって違います。

第2号被保険者にあたるサラリーマンや公務員は、国民年金と厚生年金に加入します。保険料は、厚生年金保険料として給与から天引きされますが、この厚生年金保険料の中に、国民年金保険料も含まれています。

第3号被保険者である、第2号被保険者に扶養されている配偶者は、年収が130万円未満となることから、自分で保険料を支払う必要はありません。第2号被保険者が厚生年金保険料を支払うことで、国民年金保険料を支払ったことになります。

自営業やフリーランスおよびその配偶者などの第1号被保険者は、納付書もしくは口座振替等で、自分で毎月保険料を納付しなければなりません。

年金制度の始まりはいつから?

年金制度は、昭和17年に労働者年金保険制度が始まったのがきっかけです。最初は工場で働いている男性を対象としていましたが、その後、加入対象者を女性や自営業者にも拡大し、全ての国民が公的年金へ加入することになりました。

そして、昭和60年、これまで別の制度だった国民年金と厚生年金が公的年金として1つの制度にまとまり、第3号被保険者が作られて、現在の制度に整いました。

昭和17年の労働者年金保険制度が始まり

日本で公的年金制度が始まったのは、昭和17年に工場等に勤務する男性労働者を対象とした『労働者年金保険制度』が作られたのがきっかけです。昭和19年には『厚生年金保険制度』に変わり、加入対象が事務職の男性労働者と女性労働者にも拡大されました。

昭和29年には、制度の全面改正が行われ、現在の厚生年金保険制度の基本体系が確立されました。これにより、サラリーマンや公務員に対する公的年金制度が整備されました。

自営業者等に対する公的年金制度については整備されないままでしたが、昭和36年に自営業者等を対象とした『国民年金制度』が創設され、全ての国民がなんらかの年金に加入することになりました。

昭和60年の改正から現在のような仕組みに

昭和60年、年金制度に大きな2つ改正がありました。

一つは、厚生年金に加入している人の配偶者が加入する制度として、第3号被保険者が作られたことです。第3号被保険者として国民年金に加入できるのは、厚生年金に加入している人の配偶者で年収130万円未満の人です。

この改正が行われるまでは、第3号被保険者に該当する人は、公的年金に加入しても、加入しなくてもどちらでもよかったのですが、改正が行われたことで、20歳以上の全ての国民が公的年金に加入することとなりました。

二つめは、厚生年金と国民年金の一本化です。これまでは厚生年金と国民年金は別々のものであるとされていました。

しかし、昭和60年の制度改正では、国民年金は『20歳から60歳までのすべての人が加入する1階部分の年金』、厚生年金や公務員が加入する共済年金は『国民年金の上乗せとなる2階部分の年金』と位置付けられることになりました。

年金の種類

年金には種類があるのをご存知でしょうか。実は、誰もが全ての年金をもらえるわけではありません。

国民年金も、厚生年金も、受け取れるのは年を取った時だけではありません。事故などで加入者が障害状態になった時、加入者が死亡し、遺族になった時にも年金を受け取ることができます。

どんな人が、どんな時に、どんな年金を、いくらもらうことができるのか、詳しく見ていきます。

加入者全てが受け取れる基本部分 国民年金

公的年金制度に加入している全ての人が、受給条件を満たした場合に受け取れる年金が国民年金です。

一般的に、年金は『年をとってからもらうもの』というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、年金がもらえるケースは3パターンあります。

1つは、加入者が年をとって働く力が減ったり失ったりした場合、2つ目、加入者が事故や病気で障害状態になった場合、3つ目が加入者が亡くなった場合も、受給資格を満たせば年金を受け取ることができます。

障害年金や遺族年金などを含む3種類

国民年金の加入者が、65歳になってから支給される年金が『老齢基礎年金』です。受け取れる額は、加入者が保険料を支払った期間に応じます。滞納や免除がなければ、平成30年度の満額は77万9,300円です。ただし、この老齢基礎年金の満額は、物価や賃金の変動に応じて基本的に毎年変動します。

加入者が事故などで障害状態になった時に支給される年金が『障害基礎年金』です。1級と認定された場合は、77万9,300円×1.25+子の加算が、2級と認定された場合は、77万9,300円+子の加算が支給されます。

子の加算は、第1子・第2子はそれぞれ224,300円が、第3子以降はそれぞれ74,800円が加算されます。

加入者が亡くなった時に、配偶者やその子供が受け取れる年金が『遺族基礎年金』です。受給額は77万9,300円+子の加算で、子の加算の額は障害年金と同じです。

公務員や会社員の方が受け取れる 厚生年金

公務員や会社員の方は、国民年金に上乗せして、厚生年金を受給することができます。

基礎年金と同じく3種類

厚生年金も国民年金と同じように、歳をとったことにより受けとれる『老齢厚生年金』、事故などで障害状態になった時に受け取れる『障害厚生年金』、加入者が亡くなったことにより配偶者やその子供に支給される『遺族厚生年金』があります。

国民年金と厚生年金の大きな違いは受給額の計算です。

国民年金の保険料は収入にかかわらず一定なのに対し、厚生年金の保険料は給与の額によって違います。そのため、老齢厚生年金には老齢基礎年金でいう『満額』という基準がなく、保険料納付期間と賃金に応じた額が支給されます。

障害厚生年金の受給額は障害等級によって違います。

1級の場合、報酬比例の年金額 × 1.25 、2級の場合、報酬比例の年金額が受給額となります。もし、障害年金を受ける人に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合には、1級、2級とも配偶者の加給年金額として22万4,300円が加算されます。

そして、障害厚生年金には、障害基礎年金にはなかった3級があります。支給額は報酬比例の年金額で、最低保障として58万4,500円の支給が保障されています。ただし、配偶者の加給年金はありません。

遺族厚生年金は、死亡した人の老齢厚生年金の3/4が支給されます。

色々な種類のものを自分で選べる 私的年金

国民年金や厚生年金の公的年金とは別に、企業や個人で加入できる年金を私的年金と言います。年金制度全体から見て、国民年金を1階部分、厚生年金を2階部分と言いますが、私的年金は3階部分に当たります。

私的年金は種類が多いのも特徴です。全ての人が加入できるものから、加入に条件がついているものがあります。サラリーマンなどの勤めている人が勤務先を通して加入できるものを総じて企業年金と言い、個人が加入できるものを個人年金と言います。

企業年金や個人年金など

企業が福利厚生として導入している制度として企業年金があります。企業年金にも大きく分けて3つあります。

一つ目は、『確定給付企業年金』で、従業員が受け取る年金額が決まっています。万一、運用による不足が出た場合でも、企業が負担するので受給額が減ることはありません。

二つ目は、『厚生年金基金』で、企業が国に代わって厚生年金の給付を一部代行して行い、運用状況次第で年金の上乗せができる制度です。しかし、この制度は2014年4月1日以降、新規設立ができなくなっています。

三つ目が、『企業型確定拠出年金(企業型401k)』で、掛け金は給与天引きされますが、加入者個人が自己責任で運用商品を選んで年金資金を運用します。そのため、どの商品を選ぶかによって、将来受け取る年金額が違ってきます。

年金制度は破綻している?していない?

少子高齢化が進む日本では『若いうちに年金を支払っても、将来年金を受け取ることができないのでは?』と思っている人が若い世代を中心に多いのではないでしょうか。

年金の専門家は『公的年金制度は破綻しない』と見ています。『もし公的年金制度が破綻するときには、日本という国自体が破綻している』というのが大きな理由です。

また、政府も年金制度を破綻させないために、年金制度の改正をたびたび行っています。

これらによって、年金制度が破綻する可能性は低そうですが、かといって、若い世代が、現在年金を受給している世代と同じように受給できるかと言えば話は違ってくるようです。

公的年金制度が破綻しない理由、そして国が行っている破綻リスクを下げる様々な取り組みについて詳しく見ていきます。

公的年金の制度は破綻していない

公的年金制度の破綻は、たびたびマスコミでも取り上げられます。しかし、日本の公的年金制度は破綻しないと見て良さそうです。

その理由の1つは、日本では年金給付のための積立金があります。2011年末でこの積立金の額は110兆円で、2年間、保険料や税金などの収入がなくても、年金が支払い続けられる金額を積み立てています。

理由の2つ目は、年金制度を破綻させることで、国は損をするからです。

現在、年金制度への国の負担は11兆円強です。しかし、年金制度を破綻させることで、およそ3,700万人に生活保護を支給しなければならなくなり、その金額はおよそ20兆円とも言われています。

年金は現役世代からの保険料収入がありますが、生活保護の財源は税金なので、全て国が負担しなければなりません。そのため、国としても年金制度を破綻させないほうが得策ということです。

破綻リスクを下げる様々な取り組み

国が年金制度を破綻させないためにやっている取り組みの柱が年金制度の改正です。改正の柱は二つあり、一つは受給開始年齢の引き上げで、もう一つは、受給額の減額です。

年金の受給開始年齢が上がると、破綻リスクを心配する人もいると思いますが、受給開始年齢を上げることで破綻リスクは少なくなります。

老齢年金は受給者が亡くなるまで支給が続きます。平均寿命が延びている状況の中で、支給開始年齢だけが据え置かれると、年金の支給額は増え、破綻リスクは増えます。

そのため、年金の受給開始年齢を引き上げることによって、平均寿命が延びても、現在と同じ程度の期間、年金を受給できるようにしているのです。

また、国民年金の受給額については、物価スライドにより変動します。しかし、物価が上がっても、年金の増額を物価上昇以下に抑えることで、年金が少なめになる減額を実施することが決まっています。

公的年金制度は破綻しない可能性が高いとは言え、支給開始年齢が上がったり、受給額が少なくなるリスクは受け入れざるを得なくなります。今後はそれらに備えた対応を考える必要がありそうです。

2017年の制度改正による変更点について

年金制度はたびたび改正が行われており、2017年にも年金制度改正が行われました。今回の改正のポイントをまとめます。

制度変更された点

今回の改正の大きなポイントは2つあります。

受給に必要な納付期間の短縮と、個人型確定拠出年金の所得控除の対象が広がったことです。具体的に見ていきましょう。

受給に必要な納付期間が10年に短縮

2017年の改正で行われた改正の1つが、受給に必要な納付期間の短縮です。これまで、年金をもらうためには、25年間保険料を納めなければなりませんでした。今回の改正で、年金の受給に必要な保険料の納付期間が10年に短縮されたため、新たに受給対象になる人が増えました。

しかし、老齢基礎年金は、納付した保険料に応じて受給金額が計算されるため、保険料納付期間が短ければ、それだけ受給できる額も少なくなります。

個人型確定拠出年金の対象が拡大

銀行や証券会社、保険会社などで取り扱っている個人型確定拠出年金は、公的年金を補う老後資金として活用している人も多いと思います。

掛け金は所得控除の対象となりますが、これまでは、国民年金の第1号被保険者と企業型確定拠出年金未導入などの第2号被保険者のみが対象でした。しかし、2017年の制度改正により、公務員や企業型確定拠出年金導入済みの第2号被保険者、第3号被保険者も、所得控除の対象となりました。

年金に関して知っておきたい事

サラリーマンや公務員などの第2号被保険者は、国民年金にプラスして厚生年金を受け取ることができますが、自営業者などの第1号被保険者は、国民年金だけなので、老後の生活資金不足を心配する人も多いかもしれません。

自営業者などからの声を受けて、サラリーマンとの制度格差を埋める制度ができました。また、申請することでお得に年金が増える方法があるのでご紹介します。

制度間格差を埋められる方法

これまでは、第1号被保険者が第2号被保険者との受給額の差を埋める方法として、民間金融機関の年金商品に頼らざるを得ませんでした。

しかし、平均寿命が延びている今、老後の生活資金を年金に頼る期間も伸びていることや、国民年金は、物価上昇などを加味して金額が変動することから、自営業者などから第1号被保険者と第2号被保険者の受給額を埋める公的年金制度の設立を求める声が上がりました。

その声を受けて、平成3年4月に誕生したのが『国民年金基金』です。国民年金基金は、全員が加入する国民年金とは違い、第1号被保険者が任意で加入する公的年金制度です。

免除や控除、加給年金など有利になる制度も

国民年金基金の良いところは、掛け金は全額社会保険料控除になり、年金を受け取る時は、公的年金等控除が適用されることです。また、万一加入者本人が亡くなり、遺族が一時金を受け取ることになっても、その一時金に税金がかかりません。

一方で、民間の金融機関で扱う個人年金は、年金を受け取ると所得税がかかり、銀行で貯金していた場合にも利子に20%の税金が掛かってしまうので、国民年金基金はお得な制度と言えます。

また、自営業などの国民年金の人は、国民年金の掛け金に、毎月400円をプラスして『付加年金』を上乗せすることができます。

その他にも、『加給年金』は、ご主人がサラリーマンもしくは公務員で、奥さんが年下の専業主婦の場合、奥さんが65歳になるまで、ご主人の年金にプラスして毎年38万円が支給され続けます。

申請しなければ適用されない

国民年金基金も、付加年金も、強制加入の国民年金とは違い、希望者だけが加入できる制度のため、申請が必要です。

また、加給年金を受け取る場合も、毎年手続きが必要です。自動的に適用される制度ではないことに注意しましょう。

まとめ

年金にはさまざまな種類があり、自分がどのような保険料を納めてきたかによって、受け取れる年金の種類や金額が違います。

また、全ての加入者が受け取れる国民年金の満額は、物価などの影響で、基本的には毎年変動します。少子高齢化が進む中、老後資金を公的年金だけに頼るのは難しくなりそうです。自分のライフスタイルを考え、どのような自衛策を取れば良いのか考える必要があるでしょう。