定年も近づいてくると、やはり退職金のことが気にかかる方も多いでしょう。退職金は退職後の生活を支える収入の一つですから、退職金に対してどのぐらいの税金がかかるのかも気になります。退職金にかかる税金や必要な手続き、納付方法についてまとめました。
目次
退職金にかかる税金
勤続年数が長い方の場合、退職金は大きな金額になる場合も多く、どのくらいの税金がかかるのか気になる方もいらっしゃるでしょう。退職金には所得税と復興特別所得税、住民税の3つの税金がかかります。3つも税金を支払うと、その額もかなり大きなものになるのでは?と心配になるかもしれません。
しかし、退職金は退職後の生活を支える大切な資金源でもあることから、退職所得控除を設けたり、給与などのほかの所得と分けて税金が計算される分離課税が適用されるなど、税の負担が軽くなるように配慮されています。
退職金は分離課税
所得税の課税方法には総合課税と分離課税があります。総合課税は複数の所得を合算し、そこに税率を掛けて所得税額を計算します。一方の分離課税は、その所得のみに対して税率を掛けて所得税を計算します。
所得税は、所得額が高いほど税率が高い『累進税率』が採用されています。そのため、総合課税方式で退職金に課税すると、給与などの他の所得との合計で税率が決まるため、税金の負担が重くなってしまいます。
しかし、分離課税であれば、退職金のみの金額で税率が決まるため、税金の負担が抑えられます。
税金は源泉徴収される
退職金にかかる税金は、給与と同じように源泉徴収を受けるようにすることができます。詳しい手続きについては後述しますが、源泉徴収に関しては会社の方でやってくれる場合が殆どです。
所得税
退職金の所得税額はこのような計算式で求められます。
(退職金の額ー退職所得控除額)×1/2=課税退職所得金額
課税退職所得金額×所得税率ー控除額=所得税額
退職所得控除額は、勤続20年までの方は40万×勤続年数、20年を超える方は800万+70万×(勤続年数-20)で求められます。
税率と控除額は、課税退職所得金額に応じて変わります。
課税退職所得金額:税率:控除額
千円〜195万円未満:5%:0円
195万円〜330万円未満:10%:9万7,500円
330万円〜650万円未満:20%:42万7,500円
695万円〜900万円未満:10%:63万6,000円
900万円〜1,800万円未満:33%:153万6,000円
1,800万円〜4,000万円未満:40%:279万6,000円
4,000万円〜:45%:479万6,000円
住民税
住民税は、退職所得の額に一律10%を掛けた額が徴収されます。
退職金の確定申告は原則不要
退職金を受け取る際には、その前に、退職所得の受給に関する申告書を会社に提出しなければなりません。退職所得の受給に関する申告書を会社に提出すると、税額が計算され、給与と同じように源泉徴収されるので、確定申告の必要はありません。
しかし、退職金を受け取る前に退職所得の受給に関する申告書の提出ができない場合は、確定申告を行うが必要があります。
源泉徴収税額の計算方法
では、勤続25年の方が1,500万円の退職金をもらったとして源泉徴収額を計算します。
退職所得控除:800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円
退職所得:1,500万円-1,150万円)×0.5=175万円
所得税額:175万円×5%=8万7,500円
復興特別所得税額:8万7500円×2.1%=1,837円
源泉徴収税額:8万7,500円+1,837円=8万9,300円になります。
退職所得の受給に関する申告書の提出
退職金をもらう人は、退職金をもらうまでに退職所得の受給に関する申告書を記入し、会社に提出する必要があります。
もし退職所得の受給に関する申告書を提出をせず、退職所得の受給に関する申告を行わない場合、退職金の金額に対して一律で20.42%の源泉所得税率が課せられるため、退職所得の受給に関する申告書を提出した場合の源泉徴収額との間にズレが生じる場合があります。
申告を忘れてしまった場合でも、退職金の受給者本人が確定申告をすれば、退職金の所得税額の精算はできます。しかし、スムーズな退職手続きを行うためにも、退職時には、退職所得の受給に関する申告書を提出したほうが良いでしょう。
退職金の確定申告で還付が期待できる人
退職金の税金は、源泉徴収されるのが原則で、確定申告の必要はありませんが、確定申告を行うことで支払った税金が戻ってくる場合があります。どんな場合に還付を受けることができるのか、詳しく見ていきましょう。
退職金以外の所得が少ない
退職金以外の所得が少ない場合、確定申告をすれば退職金から源泉徴収された税金の還付を受けられる場合があります。例えば、退職した年の収入が、給与120万円と退職金1,000万円のみだったとします。
給与所得控除が65万円、配偶者控除や社会保険料控除などの所得控除の合計が仮に100万円だったとすると、120万円ー65万円ー100万円=△45万円と、給与収入よりも控除額の方が大きくなります。
この45万円は、退職所得から差し引くことができます。1,000万円ー45万円=955万円を退職金の収入として改めて計算することができるので、源泉徴収で一度納めた税金であっても差額の還付を受けることができます。
退職所得の受給に関する申告書を未提出
退職金を受け取る前に、退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合にも確定申告が必要になります。
退職金受け取り時に一律20.42%の源泉所得税率で一旦税金を納めているため、本来の納税額を計算し、納付するために確定申告が必要になります。20.42%の源泉所得税率を掛けて納めた納税額よりも、本来の計算で求めた納税額が低ければ、還付を受けることができます。
退職金の確定申告をする場合
必要書類
退職金の確定申告の際には、添付が必要な書類があります。人によって該当しないものもありますが、確認して揃えておきましょう。
- 退職までの給与・賞与の源泉徴収票
- 退職後に納付した社会保険(健康保険、国民年金保険等)納入又は控除証明書
- 生命保険や地震保険に加入していればその控除証明書
- 医療費明細書と領収書
- 企業年金や公的年金を受給していればその源泉徴収票
- 株式や投資信託を行っている方は特定口座年間取引報告書
中でも、最も重要な書類が源泉徴収票です。これがないと、天引きで納めた税金の金額がわからないので、還付を受けることができません。源泉徴収票は、退職後に会社から郵送されることが多いので、なくさないように保管しておいてください。
確定申告書の様式
確定申告書には、申告書Aと申告書Bがあります。申告書Aは、給与所得、雑所得、配当所得、一時所得のいずれかの申告の際に使用するもので、退職所得の申告には、申告書Bと別表の三表を使います。申告書と添付に必要な書類が揃ったら記入していきましょう。
記入例
まず、第二表で控除額の計算をしておきます。
次に、第一表の収入金額等欄には各収入の控除前の金額を、所得金額欄には控除後の金額を記載します。 所得から差し引かれる額の欄に、第二表で計算した控除額を記載します。基礎控除は38万円を記入します。
第三表の収入金額欄に控除前の退職金総額を、所得金額に控除額を引いた支給額を記載します。 税金の計算欄には、第一表、第三表の番号に対応する金額を転記します。
第一表に第三表で求めた税金額を転記し、源泉徴収票などから納付済みの税金額の合計を計算して記載します。納付済み税金額よりも本来納めるべき税金が少なければ還付が受けられ、逆に本来納めるべき税金が多ければ追加で納付する必要があります。
退職金をもらい転職をした場合
中には、退職金をもらった後、転職して別の会社で働き始める人もいるでしょう。退職金にかかる税金については、退職金を受け取る前に退職所得の受給に関する申告書を提出すれば、確定申告の必要はありません。
しかし、退職した会社で年末調整を受けず、就職しないまま年末を迎えた場合や、年末までに就職した場合でも、新しく入った会社に退職した会社の源泉徴収票を提出していない場合は、退職した会社での給与に対する正しい税額が計算されていませんので、確定申告が必要です。
前職で年末調整をしていない人は確定申告を
前職で、年末調整をせずに転職もしくは退職した人は、確定申告をする必要があります。なぜなら、給与から天引きされる源泉徴収額は、前年の所得を元に税金の見込み額が給与から差し引かれているからです。税金は正確な金額での納税が必要です。税金を払いすぎている場合は、確定申告をすれば払いすぎた所得税が戻ってくるので、確定申告は忘れず行うようにしましょう。
確定申告を忘れてしまうと市区町村から督促が来ます。督促が来ると、所得税を払いすぎていても還付を受けられなかったり、罰則として無申告加算税が課せられます。年末調整を行なっていない場合は、必ず確定申告を行いましょう。
求職中の各種控除も確定申告をしないと損
在職中に支払った社会保険料などは、会社の源泉徴収や年末調整で正しい納税額に反映されます。しかし、求職中の場合、支払った社会保険料や生命保険料などは、確定申告書の所得から差し引かれる金額欄に控除額を記載しないと控除することができません。控除できないと本来納めるべき税金よりも多くの税金を支払うことになります。
求職期間が長いほど、確定申告をしないと控除できない額も大きくなります。求職中に支払った社会保険料や生命保険料などの各種控除の書類は、無くさないように保管しておき、確定申告で控除しましょう。
まとめ
退職金は老後を支える資金源という特徴から、控除額も大きく、税金の負担を抑える分離課税制度が適用されています。また、退職金を受け取る前に、退職所得の受給に関する申告書を提出すれば、確定申告の必要はありません。
しかし、退職後の収入が少ない場合は、確定申告をすることで税金が戻ってくる場合があります。また、再就職する場合でも、退職した会社で年末調整を受けていない場合や、新しく入った会社に退職した会社の源泉徴収票を提出していない場合など、確定申告が必要な場合もあります。
自分の当てはまるケースを見極め、必要に応じて正しく確定申告をしましょう。