年金の受給年齢が近づくと、税金や保険料がどのくらいかかるのかが気になります。老後の人生設計をするにあたって、年金の手取り額を具体的に知ることは大変重要です。ここでは年金にかかる税金など、天引きされる内容について解説します。
目次
年金に税金はかかるのか?
年金は、税法上では『雑所得』にあたります。本来、雑所得が20万円以上の場合は所得税が課税されます。
しかし所得にはさまざまな控除があり、控除後の金額によっては非課税となります。年金の場合は控除額が大きいため、非課税となったり税額が低くなったりする方が多くいます。
年金に適用される控除の種類と控除額について、みていきましょう。
公的年金控除とは
公的年金控除とは、公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)を受給している人に対して適用される控除のことです。
公的年金を受給している方は、受給額から基礎控除(一律38万円)と公的年金控除を差し引いた金額が所得税課税の対象になります。
控除の結果、課税対象額が一定以下になる場合は課税されません。また公的年金控除の額は一律ではなく、年齢と受給額によって変わります。
65歳未満の控除額
65歳未満の場合、公的年金控除の最高額は70万円です。したがって1年間の年金受給額が70万円未満の方は非課税となります。
70万円以上の場合、基礎控除を含めた控除額の合計が108万円になるので、収入が年金のみでなおかつ受給額が108万円以下は課税されません。108万円以上になると、超えた金額に対して課税されることになります。
たとえば受給額が120万円の場合、控除額の合計108万円を引いて残った12万円に対して課税されます。また公的年金控除額は、年金受給額によって以下のように変わります。
年金受給額 | 公的年金控除額 |
130万円未満 | 70万円 |
130万円以上410万円未満 | 37万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 78万5,000円 |
770万円以上 | 155万5,000円 |
65歳以上の控除額
65歳以上では、公的年金控除の最高額が120万円となり、基礎控除と合わせて158万円です。したがって年金受給額が158万円未満の場合は非課税、158万円を超える分は課税対象となります。
年金受給額に対する公的年金控除額は以下のようになります。
年金受給額 | 公的年金控除額 |
330万円未満 | 120万円 |
330万円以上410万円未満 | 37万5,000円 |
410万円以上770万円未満 | 78万5,000円 |
770万円以上 | 155万5,000円 |
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年金受給者で税金がかかる人
年金受給額が65歳未満で70万円以上、65歳以上で120万円以上の方は、課税の対象になります。基礎控除をはじめ、各種の控除を受けるために所定の手続きが必要です。
また、公的年金の受給額が非課税の範囲であっても、年金以外に収入がある方はその所得金額に対して課税されます。
所得税の税金計算方法
年金にかかる所得税の税額は、年に1度受給者が提出する『扶養親族等申告書(ふようしんぞくとうしんこくしょ)』の記入内容に基づいて、下記のように計算されます。
- (年金の受給額-社会保険料-基礎控除、公的年金控除、その他控除の合計額)×5%
ここで決定した所得税は、年金支給のたびに天引き(源泉徴収)されます。年金のほかに収入がある場合は税額が変わってきますので、確定申告で正しい納税額を計算します。
公的年金は多くの人にとって老後の大切な収入のひとつですが、そこでは所得税との関係が時折問題になってきます。はたして、公的年金に所得税はかかる...
扶養親族等申告書の提出が必要
課税対象となる年金受給者には、年金の支払い者(日本年金機構や共済組合等)から『扶養親族等申告書』が送られてきます。
この書類に記載された内容をもとにして所得税の金額を計算するのですが、もし提出しないでいると本来受けられるはずの各種控除を受けられないだけでなく、税率も上がってしまいます。
また、扶養親族がいない方も、基礎控除などを受けるためにはこの申告書を提出する必要があります。
もし提出し忘れても、確定申告をすれば払い過ぎた分が戻ってきますが、それまでは年金の手取り金額が減ってしまうことになります。届いたら、できるだけ早めに提出するようにしましょう。
年金には住民税もかかる
年金には所得税のほかに、住民税もかかります。住民税には所得金額に応じて税額が決まる『所得割』と、所得金額に関わらず定額で課税される『均等割』があり、それぞれに非課税となる条件があります。
住民税が非課税になる条件と、税額を抑える方法をみていきましょう。
年金受給者が非課税になる条件
住民税の所得割額は、前年の所得金額で決まります。住民税の基礎控除額は33万円ですが、これとは別に『非課税限度額』という考え方があり、扶養親族がいない方の非課税限度額は35万円です。
これにより、年金の受給額が下記の金額を下回れば、住民税の所得割分が非課税となります。
- 65歳以上:120万円+35万円=155万円、
- 65歳未満:70万円+35万円=105万円
一方、均等割の非課税限度額は自治体によって28万円~35万円と異なります。このため自治体によっては、所得割が非課税なのに均等割だけが課税されることもあります。
所得控除を活用して課税対象を減らす
住民税の額をできるだけ抑えるためには、各種控除を活用して課税対象となる所得を減らすことが大切です。妻や子など扶養している家族がいる場合は、配偶者控除や扶養控除が使えます。
扶養家族がいない場合の住民税の非課税限度額は35万円ですが、配偶者控除や扶養控除が適用されると下記のようになります。
- 35万円×(本人・扶養者・控除対象配偶者の合計人数)+21万円
たとえば、夫婦2人世帯で妻を扶養している場合、非課税限度額が91万円となります。年金受給額でみると、65歳以上では211万円です。
そのほか、医療費控除や生命保険料控除、住宅のリフォームなどで減税になる場合があります。
これから年金の受給が始まる人や、年金受給が近づいている人は、確定申告はどのようにしたらよいのか、よく分からないという人もいるでしょう。そこで...
年金の手取りはいくら?
日本年金機構などに問い合わせると、将来自分が受給できる年金の目安金額を知ることができます。ただし少子高齢化により財源が不足しているため、実際に受給年齢になった時にはもっと低い金額となっていることが予想されます。
しかも年金からは社会保険料や税金が引かれるので、実際に手元に残る額はさらに少なくなります。年金の手取りがどのくらいになるのか、具体的にみていきましょう。
天引きされる各種社会保険料
年金は老後の暮らしを支える大切な収入源ですが、受給時にはかなりの金額が天引きされてしまいます。中でも大きいのが社会保険料です。
年金生活者であっても、国民健康保険や介護保険の社会保険料は負担しなければなりません。保険料は所得額によって変わるので、年金受給額が多いと保険料も高くなります。
また、保険料の算出方法は自治体によって異なります。なお支払う保険料の内容は、年齢によって下記のようになります。
- 75歳まで 国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者支援金
- 75歳以上 後期高齢者医療保険料、介護保険料
所得税と住民税が引かれる場合も
年金受給額から社会保険料と控除額を引いた所得額が一定の金額以上になると、所得税と住民税が引かれます。
基礎控除の額は住民税のほうが少ないため、所得税は非課税なのに住民税だけ引かれるという方もいます。
計算シミュレーション
年金の手取り額は自治体や家族構成によって変わりますが、自分で調べて計算することもできます。
たとえば65歳で受給額が年250万円、扶養家族がいないケースで計算してみましょう。順を追って計算するとわかりやすいです。
- 基準となる所得額を算出(250万円-公的年金控除120万円=130万円)
- 社会保険料(国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者支援金)を自治体の窓口に確認
- 所得税の算出(130万円-社会保険料-基礎控除38万円)×5%
- 住民税所得割額の算出(130万円-社会保険料-基礎控除33万円)×10%
- 住民税均等割額を自治体に確認(多くは年4,000円~5,000円)
- 250万円から、社会保険料と税金を差し引く
社会保険料の金額にもよりますが、受給額の80%~90%くらいが手取り金額となります。
確定申告が必要な年金受給者
年金は雑所得にあたるため、本来は確定申告が必要です。しかし高齢者が毎年確定申告を行うことは大きな負担です。
このため年金受給者には『確定申告不要制度』が用意されていて、基本的には確定申告をしなくても済むようになっています。
ただしこの制度の条件を満たしていない場合や、医療費控除など税金の還付を受ける場合は、確定申告が必要です。
確定申告不要制度の対象にならない人
確定申告不要制度の対象となるには、下記の条件を両方とも満たしている必要があります。
- 公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、すべてが源泉徴収の対象になっている
- 公的年金等以外の所得金額の合計額が20万円以下
『公的年金等』とは、公的年金のほかに企業年金や恩給などを指しています。収入額は、それぞれの支払い者から送られてくる『公的年金等の源泉徴収票』で確認することができます。
この合計額が400万円以上の場合と、400万円以下でもほかに収入があり所得金額が合計20万円以上の場合は、確定申告不要制度の対象にはなりません。
年金以外にも収入がある人
公的年金等のほかに、アルバイトや株式投資、家賃収入などで一定の収入がある人は所得金額が合計20万円以上になると確定申告をしなければなりません。
所得金額は、アルバイトなら給与所得、家賃収入なら不動産所得のように、所得の種類別に分けて、それぞれ必要経費や控除などを差し引いて算出します。
個人で加入している年金保険も、公的年金等以外の所得になりますので注意しましょう。
生命保険料控除などを受ける人
確定申告不要制度の対象者であっても、確定申告をすることで払い過ぎた税金が戻ってくるケースがあります。
代表的なものが生命保険料や地震保険料などの控除です。会社員の間は年末調整で控除を受けることができましたが、年金受給者には年末調整がないため確定申告をしないと控除を受けられません。
保険に加入している場合は、ぜひ確定申告をすることをおすすめします。また、生計が同じ親族の国民年金保険料を払っている場合も、社会保険料控除を追加できます。
もうひとつ、年金受給者が受けやすい控除に『医療費控除』があります。入院や通院の費用だけでなく交通費や薬代なども対象になるので、1年間で考えると結構な金額になります。レシートなどは必ず保管し、利用した交通機関も記録を残しておくと良いでしょう。
まとめ
年金からは保険料や税金が天引きされます。受給額だけをみていると、いざ年金生活になったとたんに生活費が足りなくなってしまうおそれがあります。
さらに現在50歳の方が年金を受給する頃には、社会保険料が増えたり控除額が減ったりして、もっと手取りが少なくなるかもしれません。
今から年金の天引き内容についてしっかりと理解し、老後の生活に困らないよう備えておきましょう。