退職金に税金はかかる?受け取り方法を含めてやさしく解説します

退職金は老後生活を支える大切な資金です。退職金を楽しみに頑張っている人も多いですが、退職金にも税金がかかります。受け取り方法によって優遇される度合いが異なるため、下調べをしておくことが必要です。退職金制度の仕組みや節税方法を解説します。

退職金の2つの制度

退職金というと、「退職時に一括して支払われるもの」というイメージを持つ人も少なくないでしょう。退職金給付制度は、『退職一時金制度』と『企業年金制度』の2つがあり、それぞれ仕組みや退職金の受け取り方が異なります。2つの制度の特徴を見ていきましょう。

退職一時金制度

『退職一時金制度』とは、退職をする際に、退職金を一括で受け取る方法です。一般的に、退職一時金の原資は、企業側が従業員のために長年準備しておいた『内部積立金』となります。

定年退職、リストラなど、会社都合の場合には満額が支給されますが、個人都合で退職した際は、満額が支給されない可能性があります。一般的な所得とは別に、優遇された税制が適用されるのが特徴です。

企業年金制度

『企業年金制度』とは、退職金を一括でなく、年金方式でもらう方法です。分割方式なのでまとまったお金は入りませんが、決まった時期に決まった金額が受け取れるので、老後生活の安定した資金源になります。

受け取ることのできる金額・期間については、『企業年金規定』または『退職年金規定』で定められています。

また、退職一時制度との大きな違いの1つに『企業の資産運用の方法』が挙げられます。退職一時制度は会社内部で積み立てをし運用するのに対し、企業年金制度は会社外部に運用を委託します。

企業年金制度は、3つの種類に分類されます。

厚生年金基金

『厚生年金基金』は企業が運営する『企業年金制度』の1つで、『3階建て』と称されるものの3階部分にあたります。

  • 国民年金+厚生年金(共済年金)+基金が独自に支給する年金

基金では、国民年金や厚生年金など一部の支給を代行します。その際、基金が独自に支給する年金が上乗せされる仕組みになっています。

バブル期までは、多くの企業が厚生年金基金に加入していましたが、バブル崩壊後は運用が悪化の一途を辿っています。さらに高齢化によって年金受給者が増加し、現在は解散が相次ぎ、平成26年4月1日以降は、新規の厚生年金基金の設立は認められていません。

今後の企業年金制度は、確定給付年金か確定拠出年金のどちらかとなるでしょう。なお、国の制度である『厚生年金』は全く別のものなので混同しないようにしましょう。

確定給付年金

『確定給付年金』とは、文字通り、従業員に給付される年金の額が確定されているという制度で、現在の日本において最もメジャーといえるでしょう。企業と従業員で金額内容をあらかじめ話し合っておき、退職後に合意内容に基づいた金額が支給されます。

企業側が管理や運営の一切を行い、万が一企業の運用が悪化した場合でも、従業員は合意内容の金額を受け取ることができます。

確定給付年金には『規約型』と『基金型』の2種類があります。『規約型』は生命保険会社や信託銀行などの機関で外部積立てを行う体制のことで、『基金型』は企業年金基金とよばれる組織が管理から給付までを行う方法を指します。

確定拠出年金

『確定拠出年金』は、企業や加入者が一定額の掛金を出し、加入者(従業員)が自分で運用をする方法です。ここで決められているのは掛け金(積立金)の額のみで、運用先も加入者が自分で決める必要があります。

自由度が高いぶん全てが加入者に委ねられるといえるでしょう。運用次第で将来自分が受け取れる年金の額が異なるのが特徴です。

もちろん運用が失敗すれば退職金が減る可能性があります。加入者は普段から資産運用に関する知識を身に着けておくことが求められます。

3つの企業年金制度のうち、現在は確定給付年金を取り入れている企業が最も多いですが、近年は確定拠出年金の導入が右肩上がりとなっています。

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退職金には税金はかかる?いくらから?

会社を退職した後は、退職金が重要な生活資金となります。そのため、どのくらい税金がかかるかはとても重要な問題といえるでしょう。退職金の受け取り方で、税負担がどのように変わるかを具体的に見ていきましょう。

退職金は分離課税

退職金には所得税と住民税の2つの税がかかりますが、企業への長年の功労を労う意味も込められているため、優遇された税制が用いられます。具体的にいえば、他の所得と分離して課税される『分離課税』が導入されているのが特徴です。

課税対象となるのは、退職金の総額ではなく『退職所得控除額』を差し引いた額の50%であることも頭に入れておきましょう。また、年金方式ではなく『退職一時金』で受け取った場合のみに分離課税が適応されます。

源泉徴収で引かれる税金

会社側が退職手当や退職一時金などを支払う際は、原則として所得税を源泉徴収し、税を差し引いた金額を支給します。この時に分離課税が適応されます。基本的には受給者(従業員)は自分で退職金の確定申告をする必要がありません。

しかし、受給者は企業に『退職所得の受給に関する申告書』をする必要があるということには注意しましょう。

税金がかからない人とは?

中には、退職金に税金がかからない人がいます。

退職金の課税対象は、『退職金の総額』から『退職所得控除額』を引いた金額の50%です。退職金の税金をする際に重要になるのが『職所得控除』という項目で、もし、退職金が退職所得控除の額を越えなければ、税金はかかりません。

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退職所得控除とは

退職所得や、控除額の計算の仕方について詳しく説明します。退職所得控除について理解すると、退職金にかかる税金がだいぶ優遇されていることが分かってくるでしょう。

退職所得とは

『退職所得』とは、税制が優遇される対象となる所得です。そのため、退職時に受け取ったお金のどの所得が退職所得にあたるのかを把握しておく必要があります。

基本的な定義としては、『退職により一時に受ける給与』で、退職手当や一時恩給などが含まれます。また、生命保険会社や信託会社などから受けとる退職一時金も退職所得です。

一方、企業において、他の現従業員に支払われる賞与と同性質のものは、退職所得ではなく給与所得と見なされます。税制が変わってくるのでしっかりと区別するようにしましょう。

控除額を計算する

退職所得控除の額は、全ての人が一律というわけではありません。勤続年数が20年以下か、20年以上かによって異なります。

簡単にいえば、勤続年数が20年以上の長い人ほど税の優遇は手厚くなっています。実際の計算方法を見ていきましょう。

勤続年数20年以下の場合

勤続年数が20年以下の場合、退職所得控除額は以下の計算方法が用いられます。これは1年間につき40万円までは所得と見なされないという意味になります。

  • 40万円×勤続年数

ここでは、勤続年数に1年未満の年があった場合でも、1年として計算されます。例えば勤続年数が9年3カ月であった場合、端数の3カ月は切り上げとなり、10年で計算します。

控除額の計算は、40万円×10年=400万円で、退職所得控除額は400万円ということになります。

なお、この計算方法によって算出した額が80万円に満たない場合は、80万円が退職所得控除額となります。

勤続年数20年以上の場合

勤続年数が20年以上の場合、退職所得控除額は以下の計算方法が用いられます。1年間につき70万円までは所得と見なされないことになります。

  • 70万円×(勤続年数-20年)+800万円

たとえば勤務年数が30年の人の場合は、70万円×10年+800万円=1500万円が退職所得控除額です。

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退職金にかかる税金の計算方法

それぞれの退職所得控除額が分かったところで、次に退職金にかかる税金の計算方法を見ていきましょう。退職金には『所得税』と『住民税』の2つがかかります。

所得税の計算式

退職金にかかる所得税は、通常の所得税とは別の優遇された税制(分離課税)で計算されます。

  • (退職金の総額 - 退職所得控除額) × 1/2

たとえば、勤務年数が30年で、2000万円の退職金をもらったと仮定します。1500万円が退職所得控除額だった場合、課税される退職所得金額は、(2000万円-1500万円)×1/2=250万円です。

次に『所得税の試算表』を参考に、かかる税率をチェックしましょう。330万円以下に該当するので、所得税率は10%です。最後に、興特別所得税の102.1%をかけた金額が税額となります。

  • 税額=(課税退職所得金額)×(所得税率)−(控除額)×102.1%
課税退職所得金額 所得税 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え~330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え~695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え~900万円以下 23% 636,000円

退職金の総額が退職所得控除額に満たない場合は、当然のこと税金はかかりません。

住民税

次に退職金の住民税の計算方法を説明します。住民税は以下の計算式にあてはめて算出して下さい。

  • 住民税=退職所得×10%(税率)

住民税の税率は、4%の都道府県税率に6%の市区町村税率を加えた標準税率になります。しかし、自治体によっては、異なる税率を適応しているところもあります。『環境税』が上乗せされて割高になっているケースもあるので、確認しておきましょう。

退職金に関わる申告関係

ここからは退職金をもらう際に必要な申告書について説明します。申告を忘れてしまうと税金が変わってしまうので注意しましょう。

退職所得の受給に関する申告書

退職金をもらう際には、国税庁のHPにある『退職所得の受給に関する申告書』をダウンロードし、必要事項を記載した後、会社に提出しなければなりません。

この申告書があることで、源泉徴収するときに優遇された税制が適用されます。申告書がない場合は、退職金から一律20.42%の税金が差し引かれることになります。

『申告書』なので、基本的に会社側が用意するものではなく、退職金を受ける人が自ら申告し、提出するものです。会社によっては丁寧に準備をしてくれるところもありますが、相手まかせにしていると税制の優遇が受けられないことになりかねないので注意して下さい。

確定申告をしたほうが良い人とは

退職金は源泉徴収された後の金額が支給されるので、基本的に個人で確定申告をする必要はありません。しかし、する必要がないというだけで、確定申告を行うことも可能です。

たとえば以下のような人は、確定申告をすることで住民税以外の所得税のいくらかが戻ってくる可能性があります。

  • 所得総額が少ないのに所得控除が大きい人
  • 退職後、再就職していない場合
  • 『退職所得の受給に関する申告書』を提出していない場合
  • 退職後も健康保険の任意継続保険料を支払っている場合

退職金をもらうと全て終わりと考えがちです。しかし、会社を退職し再就職をしない場合、年末調整がなされないため、税金を納め過ぎている可能性もあります。心当たりのある人は確定申告をすることをおすすめします。

退職金の税金対策

退職金をできるだけ多くもらうための節税対策について解説します。

受け取り方法で税金が変わる

退職金の受け取り方は全額を一度に受け取る『退職一時金』と、『年金方式』で受け取る方法の2種類があり、税金は受け取り方法によって変わってくる場合があります。できるだけ負担が軽い方を選ぶのが賢明です。

受取額が多いほど社会保険料と税負担増

どちらの受け取り方法がお得かは、企業年金の運用率や年金額など個人の状況によるため、一概にはいえません。しかし明らかなのは、退職金の受取額が多いほど社会保険料が上がり、税金の負担も増えるということです。

これらを踏まえながら、どの受け取り方法が自分に合っているのかを考えてみましょう。

退職金の受け取り方法を比較する

一時金で受け取る方法と年金方式の2つの方法を比較してみましょう。それぞれにメリットとデメリットがあります。

一時金で受け取る

一時金で受け取るとは、退職金の全額が1回で支払われるということです。支給方法が自分で選べる企業もありますが、『退職一時金』を基本としている企業も少なくありません。

退職一時金は、税法上では『退職所得』の扱いになり、『分離課税』という優遇された税制が採用されるのが特徴です。

メリットとデメリット

退職一時金として受け取ると、優遇税制が適用されるというメリットがあります。『退職所得控除』という非課税枠があり、さらに『2分の1課税』で税金はグッと安くなります。

また、退職一時金には厚生年金保険、健康保険、雇用保険などの社会保険料がかかってきません。

退職後に国民健康保険料に加入する人は、当然国民健康保険料を支払う必要があります。国民健康保険料は、前年度の所得に応じて金額が決まりますが、退職所得は対象外となっているので、社会保険料の面でも優遇されているといえるでしょう。

デメリットは、まとまったお金が入るため運用能力が問われるということです。住宅ローンに充てるなど効率的に利用できればいいですが、無駄遣いをしてあっという間に使い果たす人も少なくありません。

年金で受け取る

年金方式は退職金を分割して受給する方法です。『退職所得』の扱いでなはく、他の公的年金や企業年金などと同様『雑所得』として扱われるのが特徴です。

退職時に一括して支給しない代わりに、毎月の給与や賞与に退職金を上乗せする『退職金前払い制度』を採用する場合もあります。

メリットとデメリット

会社が一定の利率で運用を続けるため、退職一時金で受け取ったときよりももらえる総額が多くなるというメリットがあります。運用利率が高ければ高いほど年金方式が有利です。また、無駄遣いのリスクが少なく、老後の安定した収入源になります。

しかし退職一時金のように、退職所得控除などの優遇措置はありません。公的年金や企業年金と合算され、『公的年金等控除』が適応されます。

公的年金等控除は年齢・金額に応じて異なりますが、65歳未満で130万円以下の年金額なら、70万円、65歳以上の場合には基礎控除を含め158万円です。

また、社会保険料の支払いの対象となる点も退職一時金との大きな違いといえるでしょう。

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まとめ

退職金をどう受け取るかによって、老後の生活が変わってくるといえます。会社の方針で退職金の受け取り方が決められていることも多いですが、中には受給者が自由に選択できるケースもあります。老後のライフスタイルを考慮しながら、節税できる方法を選びましょう。

また、退職金に関わる書類の申請を忘れると、優遇税制が適用されなくなってしまい、せっかくの退職金がグッと減ってしまう可能性があります。人任せにせずに、自分からしっかりと調べておきましょう。