介護保険はどんな保険?仕組みや保険料などをくわしく解説します

高齢化社会の介護問題に対応するために生まれた『介護保険制度』は、若い人にとっては馴染みのないものかもしれません。しかし、高齢による介護は誰もが避けては通れない道です。『介護保険』の仕組みや保険料について解説します。

介護保険制度を知ろう

『介護保険』とは、厚生労働省が制定した『介護な必要な人をサポートする制度』です。

介護を受ける側も介護をする側も、大きな精神的・肉体的負担が少なくて済むように、様々な『介護サービス』が利用できるのが特徴です。実際の中身を詳しく説明していきます。

介護保険の3つの柱

『介護保険制度』は、2000年4月から施行されていますが、まずはこの制度のポイントとなる3つの柱(基本理念)を知ることから始めましょう。

  • 自立支援
  • 利用者本位
  • 社会保険方式

『自立支援』は、高齢者が介護を受けるだけでなく、自立生活ができるようにサポートすることを指しています。

2つ目の『利用者本位』は、被保険者が自らの意思で選択し、福祉・介護サービスが総合的に受けられることです。3つ目は、自分が納めた保険料に応じたサービスや給付金を受けられることを示しています。

運営は市町村

国が制定した『介護保険制度』は、被保険者が問題なく制度を受けられるように、市町村によって管理・運営されています。つまりこの制度は、国・県・市町村が連携し、より多用なニーズに柔軟に対応していくという仕組みなのです。

そのため、『介護サービス』の申請や相談は、各市町村の『地域包括支援センター』などが窓口になっており、市町村が『要介護認定』や『要支援認定』などの具体的業務を行っています。

介護保険法について

2000年施行の『介護保険制度』は1997年に制定された『介護保険法』に基づいて運営されています。

この法律が制定される前は、『老人福祉法』などがあり、一時は医療費を全負担していた時代もありましたが、高齢化に伴い国の負担額が増加、改定を迫られたという背景があります。

『介護保険法』には、介護サービスが必要とされる基準や、サービス運営の基準などが詳細に記載されています。

上記で述べた介護保険制度の3つの理念や、運営主体が市町村であること、『要介護』や『要支援』がどのような認定基準になるか、なども明記されています。

制度のあらましは英語版パンフレットもあり

介護保険制度のあらましを載せたパンフレットは、英語版パンフレットも用意されています。また、東京都では増加するアジア圏の長期居住者に対応するため、中国語・韓国語のパンフレットも作成しています。

介護保険のパンフレットは、市町村ごとに作成され、そこに住む多種多様な外国人に合わせたものになっています。

介護保険制度の仕組みについて

介護保険はどのような仕組みになっているのでしょうか。被保険者の種類について詳しく解説をしていきます。

対象年齢は40歳から

日本に住む国民は、40歳になると『介護保険』を納める必要があります。今後、介護が必要になる時に備えて、一定の保険料を毎月納めていくということです。

『介護サービス』は、国や市区町村の公費(税金)と、自分が納めた保険料によってまかなわれる仕組みになっています。

介護保険に加入すると、40歳以上は介護保険の『被保険者』ということになりますが、『第1号被保険者』と『第2号被保険者』の2種類に分類されるのをご存じでしょうか。第1号と第2号は、主に以下の点が異なります。

  • 給付(サービス)を受ける条件
  • 保険料の算定方法
  • 保険料の納付方法

介護保険第1号被保険者とは

第1号被保険者は、主に65歳以上の人を指しています。個人にもよりますが、65歳以上は年金受給者であることが多いのが特徴です。

『介護保険被保険者証』(65歳以上)が郵送され、介護が必要と認定されれば、原因を問わずに、必要な介護サービスを受けることができます。

介護保険第2号被保険者とは

40~64歳で国民健康保険・医療保険に加入している人、またはその『被扶養者』は第2被保険者に分類されます。一般的に40歳になると、加入している国民健康保険・医療保険と一緒に、介護保険が算出されます。

第1号被保険者とは違い、第2号被保険者には『介護保険被保険者証』がありません。サービスが受けられる条件は、『老化が原因とされる病気(特定疾患)』で要介護と認められた場合のみとなります。

介護保険料の負担率は厚生労働省によって設定されています。

介護保険料の支払いについて

第1号被保険者と、第2号被保険者の介護保険料の支払いの違いについて解説します。

第1号被保険者は年金から天引き

65歳以上になると、年金が給付されます。介護保険料は、年金から天引き(年金額が18万円以上の場合)されるか、納付通知書をもって市町村の窓口で保険料を納める『直接納付』かのどちらかになります。

尚、保険料については、市区町村により基準額が異なります。

第2号被保険者は医療保険料と共に徴収

厚生労働省が負担率を設定し、医療保険の給付にあてられる保険料と一体的に徴収される仕組みになっています。

例えば、『国民健康保険』に加入している人は『国民健康保険料+介護保険料』を一緒に納めるということになります。金額は世帯ごとに決定されます。

『医療保険』に加入している人は、『医療保険料+介護保険料』が給与から天引きされる仕組みになっています。金額は、介護保険料率と給与に応じて決定され、事業主が介護保険料を半分負担するという形になります。

尚、『被扶養者』の場合は、自分で個別納付をする必要はありません。

介護保険で受けられるサービス

自分が『要介護』となって時には、介護保険でどのようなサービスが受けられるのでしょうか?介護保険で受けられるサービスは、大きく分けて3つになります。

それぞれの特徴について見ていきましょう。

施設サービス

介護保険で制定されている『施設サービス』は主に以下の3種類のみです。

  • 介護療養型医療施設
  • 特別養護老人ホーム
  • 介護老人保健施設

『介護療養型医療施設』は医療機関が提供する施設で、病気の治療を行いながら介護を受けるという形になります。医療の『療養病床』を介護で使用できるようにしたもので、利用認定された施設のみが対象となります。

『特別養護老人ホーム(特養)』は、身体または精神上の障害により常時介護が必要ながらも、独居老人などの家族のサポートが得られにくい人を対象とした施設です。

『介護老人保健施設(老健)』は、リハビリを中・長期的に行う必要がある人を受け入れる施設のことです。リハビリテーションの専門家や医師が常在していて、在宅復帰を前提にしています。

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居宅サービス

介護福祉士や訪問看護員が要介護者の自宅を訪問して、必要なサポートを行うサービスのことです。

高齢者住宅などの特定施設に入居している場合、『施設サービス』ではなく『居宅サービス』となります。つまり、上記の3つの施設(介護療養型医療施設・特別養護老人ホーム・介護老人保健施設)以外は、居宅サービスということになります。

居宅サービスは、『訪問介護』と『通所介護』の2つに分けられます。通所介護は、週数回のデイサービスや、ショートステイ、ケアハウスへの通所などが含まれ、基本的には自宅に居ながら受けられる介護サービス全般を指しています。

その他、福祉用具のレンタルサービスも居宅サービスに含まれることを覚えておきましょう。

地域密着型サービス

認知症高齢者や要介護者が、住み慣れた地域で安心して暮らせるように、平成18年に創設されたサービスです。

監督は市町村が行い、サービス事業者は市町村によって指定されます。小規模で運営される地域密着型のグループホーム、定期巡回、24時間態勢での随時訪問、看護と介護を一体化した複合施設など、利用者のニーズにきめ細かく応えられるのが特徴です。

問い合わせの窓口は、『地域包括支援センター』や『市町村の福祉課』となっており、市町村によって内容が異なります。

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介護サービスの判断基準

上記では、介護保険制度の主なサービスや理念について説明しましたが、では、実際に介護サービスを受けるには、どのような判断基準があるのでしょうか。

介護保険でサービスを受けるには市町村から『要支援認定』または『要介護認定』を受ける必要があります。認定は、『介護の必要なし』を含め、要支援1・2、要介護1~5のどれかに判定されます。

要支援認定

『要支援認定』は、介護が必要ではないものの、日常の複雑な動作に困難があり、サポートが必要とされるケースです。要介護状態への進行を予防する目的があるともいえるでしょう。要支援認定は、2段階に分類されています。

『要支援1』は、日常の基本動作(食事・排泄・入浴など)はできるが、家事・交通機関の利用・服薬・金銭管理などの複雑な動作が難しいケースとなります。

『要支援2』は、要支援1よりも、その機能が僅かに低下している状態で、問題行動や理解の低下が見られるものの、改善の見込みがある状態を指します。

要支援認定が受けられるサービスは、主に要介護状態への進行を防ぐことを目的とした『介護予防サービス』となります。

要介護認定

『要介護認定』は、『要支援』と違い、問題行動や理解低下に改善が見込まれず、『今すぐ介護サービスが必要な状態』のことです。

『要介護1』は食事や排泄は1人でできるが、日常の基本動作の所々にサポートが必要な状態を指します。『要介護2』は食事や排泄などの基本動作にも困難を感じ、身の回りの世話全般にサポートが必要となる状態です。

一方、『要介護3』になってくると、日常の基本動作は勿論、歩行や両足での立位保持など、『移動の動作』が1人では難しく感じることがあります。

更に『要介護4』は、日常の基本動作や移動の動作が1人では殆どできず、問題行動や理解の低下が全般的に見られる状態で、『要介護5』は、意思の伝達が殆どできない『最重度の介護を必要とする状態』となります。

介護保険の注意点

介護保険といっても、全ての人が同じようにサービスを享受できるわけではありません。介護保険対象外となるケースもあることに注意しましょう。

39歳以下は要介護でも介護保険対象外

介護保険制度は、主に高齢者の生活をサポートするという意味合いが強く、高齢に該当しない人は様々なサービスの制限があることを覚えておかなければいけません。

『介護保険被保険者証』がある65歳以上の被保険者は、原因を問わず認定に見合った介護サービスが受けられるのに対し、40歳~64歳は『特定疾病として指定された病気のみ』が介護サービスの対象です。

さらに、事故や病気が原因で、39歳以下で『要介護』になったケースはどうでしょうか?

そもそも40歳以下は『介護保険制度』の対象外ですので、サービスの利用はできません。40歳で介護保険制度に加入しても、すぐに介護サービスが受けられるというものではありません。

海外在住者は介護保険から外れる

介護保険制度は、国内に住所があり、介護保険料を支払っている人に適応されます。

海外在住者(日本国内に住所を有しなくなった人)は、介護保険の適用除外となり、勿論、介護保険料も発生しません。

一定期間の海外勤務の場合も、介護保険から外れるための手続きをし、日本に帰国してから、再加入手続きをとるという形になります。運営主体である市町村に必ず申請する必要がありますので忘れないようにしましょう。

一方で、『健康保険組合』に加入の場合は、被保険者(40歳以上65歳未満)が海外勤務中でも、被扶養者が国内にいる場合は、介護保険料を徴収する場合があります。

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介護保険事業状況報告とは

厚生労働省では市町村からの『介護保険事業状況報告』を集計し、公表しています。統計の目的や、統計から分かる現状についてお話します。

統計の目的

『介護保険事業状況報告』は、市町村からの報告を受けて、介護保険事業の実態状況を数値化したものです。

これらのデータは、今後の介護保険制度を円滑に進めていくための基礎資料として使用されます。各市町村のHPや厚生労働省のHPで、統計を公開しているので、全ての人が現状を把握することができます。

主な集計項目

集計項目は多岐にわたり、介護保険を運営している保険者(市町村と特別区)が対象となっています。介護保険事業状況報告の概要には以下の項目があります。

  • 第1号被保険者数
  • 要介護(要支援)認定者数
  • 居宅(介護予防)サービス受給者数
  • 地域密着型(介護予防)サービス受給者数
  • 施設サービス受給者数
  • 保険給付決定状況

全体の統計には、第2被保険者の状況も掲載されていますが、主な集計の対象となっているのが、65歳以上の『第1号被保険者』です。

統計には、65歳から90歳以上まで、5歳ごとに集計結果が記載され、また男女別にも集計されています。状況をタイムリーに把握できる月報と過去数年の状況が比較できる年報があります。

報告書より読み取れること

第1号被保険者の数は、年を追うごとに増加の傾向が見られます。特に、後期高齢者といわれる75歳以上の割合が、第1号被保険者の約半分を占めているのが特徴といえるでしょう。

要介護(要支援)認定者数も、前年に比べ増加しており、平成29年度は、女性が男性の2倍の数となっています。

また、第1号被保険者の全体的な増加に伴い、サービス受給者数、保険給付の費用額(介護給付・予防給付)も右上がりの状態です。

特に、『居宅サービス』を利用する人が多く、親の面倒を見るために働き盛りの年代が『介護離職』をする現状ともリンクしています。

海外の介護保険制度

高齢化社会と言われるのは日本だけではありません。海外では介護保険制度はどのように制定されているのでしょうか。

制度がある国は限られている

実は『公的な介護制度』がある国は世界でもごく少数で、ドイツ、日本、韓国が主となっています。

ドイツは『在宅介護優先』で、要介護者の給付金の中には、家族が介護労働した対価も含まれているのが特徴です。また日本との大きな違いとして、赤ちゃんから高齢者までが介護保険の対象者となっています。

このように、公的な制度がある国は、世界でも高齢化が一層進んでいる地域といえるでしょう。

アメリカは公的な介護保険制度はない

アメリカには、公的な介護保険制度はなく、たとえば、アメリカの『健康保険』や『メディケア』は、医療はカバーしても、介護は対象外ということが多いのが現状です。

つまりアメリカでは、介護保険は、個人で加入するものという意識が高いのです。実際の加入率はそれほど高くなく、健康状態の審査があるので、加入できないケースも出てくるようです。

アメリカの高齢者対策が遅れているのは、日本やドイツなどに比べて、高齢者人口が少ないことが理由です。しかしアメリカのベビーブーマーが高齢化する日も遠くはないでしょう。

まとめ

世界においても日本は公的な高齢化対策がなされている国という印象を受けますが、実際は、65歳以上にならなければ十分な介護サービスが受けられないところや、急速に進む高齢化と少子化に十分に対応できているのか、などの疑問も多くあります。

介護保険料を納める40歳を迎えたら、将来の介護について、一度しっかり考えてみましょう。