住んでいる地域で徴収される『住民税』ですが、世帯によっては非課税の対象になる場合があります。住民税が非課税になると、ほかにも意外なメリットが多数あります。非課税の申請は自分で行うことなので、手続き方法をしっかり理解しましょう。
住民税とは
『住民税』は、1月1日時点の住所地に納める税金です。使い道は特定されていませんが、基本的には、その地域に住む住民の為の教育や防災、福祉サービス、道路・水道・ガスなどのインフラ設備を充実させる為に使われます。
役所等の税務課で課税証明書を申請すれば、年度ごとに今まで支払った税額を確認することが可能です。
市町村民税と道府県民税、都民税がある
住民税は『道府県民税』と『市町村民税』の総称です。都道府県民税は各都道府県に、市町村民税は各市町村に納付します。税法上で違いがあることから、東京都内にお住まいの場合は『都民税』、更に東京23区内にお住まいの場合は『特別区民税』という名称になります。
住まい | 住民税内訳 |
東京都に在住 | 都民税+特別区民税もしくは市町村民税 |
東京都以外に在住 | 道府県民税+市町村民税 |
これらは納付先の地域によって税率に若干の違いがあり、それぞれ算出される金額が変わりますが、市民税と県民税を合わせた『住民税』を一括して支払います。
所得割と均等割
住民税には、1年間の所得に応じて支払う『所得割』と一定の金額を支払う『均等割』があります。それぞれが市民税と県民税の税率により算出され、合算したものが住民税の金額となります。
所得割と均等割の計算方法は以下の通りです。
住民税 | =所得割額+均等割額 |
所得割 | 市民税(%)+県民税(%)が前年の所得金額に課税される |
均等割 | 市民税+県民税が所得金額に関わらず定額で課税される |
所得割分は前年の所得で決まる
所得割額は、前年の1月1日から12月31日までの1年間の所得を元に算出されます。その為、前年よりも著しく収入が減った場合でも、前年度の所得に応じた高額な税金が課せられるので、気をつけなければなりません。
住民税の計算方法
住民税は、毎年1月1日から12月31日までの収入や各種控除などを用いて計算することができますが、自力で1つ1つ計算していくにはかなりの手間がかかります。入力するだけで簡単に計算ができる『住民税の自動計算サイト』などを有効に利用してみましょう。
税金額を自分で把握できるようになると、個人事業主の場合は節税のためのコントロールができたり、一般企業に勤めている人で副業収入がある場合などの確定申告の時に役立ったりというメリットがあります。
また、ふるさと納税を活用している人や興味がある人は、自分の納税額を把握しておくことで、寄付の適正額がわかります。
均等割額は定額で課税
均等割額は所得に関係なく一定の金額です。簡単にいうと、住民税の『基本料金』のようなもので、同一自治体内では誰もが同じ金額を収めることになります。ただし、所得金額が均等割額以下の場合などは、免除対象になることもあります。
住民税 | 金額 |
市民税 |
全国一律3,500円(平成26年度から平成35年度まで) |
県民税 | 全国一律1,500円(平成26年度から平成35年度まで) |
自治体によっては、財政上の理由により金額が上乗せされる場合があります。例えば、東日本大震災の際には、復興支援として臨時的に市民税・県民税それぞれ500円ずつ引き上げられました。
所得割額の計算方法
所得割額の税率は以下の通りです。ただし、納付先の地域によって若干の差がありますので、お住まいの地域の税率を確認してみましょう。
住民税 |
所得割額税率(10%) |
市民税 | 6% |
県民税 | 4% |
所得割額は(前年の所得額−所得控除額)×所得割額税率−税額控除額の計算式で求めることができます。
- まず、前年1年間の所得額から所得控除額(基礎控除・配偶者控除・扶養控除・配偶者特別控除など)を引きます。
- 1の金額に市民税(6%)と県民税(4%)を掛けます。
- 2の金額から税額控除額(調整控除額・住宅借入金等特別税額控除額・寄付金税額控除額及び配当割額など)を引きます。
住民税の納税方法
住民税は、前年の1月1日から12月31日までの所得により算出されて、6月から納付が始まります。
1年の流れは以下のようになっています。
時期 | 一般企業の会社員 | 個人事業主やフリーランス |
1月〜3月 | 勤め先の会社から、市区町村役場へ給与支払報告書が送られる。 | 確定申告を行う。申告書の住民税に関する項目を記入する。 |
4月〜5月 | 納税額が決定し、市区町村から会社へ決定通知書・納付書が送られる。 | 納税額が決定し、市区町村から個人へ決定通知書・納付書が送られる。 |
6月〜 | 原則、毎月の給与から天引き。 | 一括、または年4回に分けて納付。 |
納税方法は2種類に分かれます。個人事業主やフリーランスのように給与所得ではない場合は、自分で納付する『普通徴収』、企業勤めの人のように給与所得のある場合は、給与から天引きして会社が納める『特別徴収』となります。
普通徴収
普通徴収では、個人事業主などを含め、自分で住民税を納付する人を対象に、毎年6月市町村から送られてくる『納税通知書(納付書)』により納税します。
一括支払い、または6月・8月・10月・1月の4回分割支払いが可能なので、支払い方法に応じた納付書を利用して納付します。
住民税の支払いは、自治体によって対応していないサービスもありますが、以下のような方法が一般的です。
支払い方法 | 詳細 |
納付書 | 銀行、コンビニ、役所などで支払い |
ネットバンキング、ATM |
金融機関のネットバンキングやATMで手続き |
クレジットカード | 自治体のサイトから、住民税をカード払いに設定 |
銀行口座振替 | 自治体に銀行口座振替の申し込みをする |
毎年支払いに行くのが面倒な場合には、口座振替の手続きをしておくと手間が省け、払い忘れの心配もないので安心です。
特別徴収
特別徴収は、一般企業に勤めている会社員、アルバイト、パート従業員が対象です。普通徴収のように個人が直接納付を行うのではなく、給与等を支払う事業者が個人に月々支払われる給与から税金を預かり、代行して納税を行う仕組みです。
企業側は、それぞれの従業員の年間の住民税額を12当分して、各月の給与所得から天引きします。預かった税額は、一括して翌月の10日までに各市町村に納付します。
住民税が非課税になる人
一定の条件を満たす場合、住民税が非課税になります。非課税の対象になる条件としては、主に所得が低いことと、本人もしくは扶養者に特別な事情があることなどが挙げられます。
住民税が非課税の対象者になったからといって、給与から天引きされなくなったり、納税通知書が送付されなくなったりするわけではありません。
次の3つの項目のうち、1つでも該当する場合は『均等割』と『所得割』共に住民税が非課税になり、該当する人は、市役所などで住民税の非課税証明書を発行する必要があります。
住民税が非課税になると様々な福祉的サービスが受けられるので、条件をしっかり確認しておきましょう。
生活保護を受けている人
資産や能力などを活用しても生活が困難な人に対し、その程度に応じて最低限度の生活が保証される制度を『生活保護制度』と言います。
『生活保護』の手続きには、まず各市町村にある福祉事務所の生活保護担当に相談・生活保護の申請をします。保護の決定には、家庭訪問や資産調査などが実地されます。
『生活保護』が受理され、生活保護費を受け取った時点から住民税が非課税になります。ただし、生活保護費受給前の住民税、及び滞納分の免除はされないので注意してください。
障害者、寡婦、寡夫等で所得が基準以下
障害のある方も住民税が非課税になる可能性があります。『障害者控除』の対象になる条件は、1月1日時点で障害者認定を受けていて、さらに前年の合計所得金額が125万円以下の場合です。
また、夫や妻に先立たれた方も非課税の対象になる場合があります。『寡婦、または寡夫』控除の対象になる条件は、前年の合計所得金額が125万円以下かつ、1月1日時点で以下3つのうちどれかに当てはまる場合です。
離婚・死別の条件 | 親族の条件 | 所得の条件 | |
寡婦控除 | 離婚/死別 | 扶養親族/同一生計の子がいるかどうか | なし |
死別の場合 | なし | 500万円以下 | |
特定の寡婦 | 離婚/死別 | 同一生計の子のみ | 500万円以下 |
寡夫控除 | 離婚/死別 | 同一生計の子のみ | 500万円以下 |
前年所得が基準以下
前年の合計収入が各自治体が設定している基準以下の場合も、住民税が非課税になります。額は自治体によって異なりますが、多くの自治体が下記の金額を基準としています。
- 単身者:所得35万円以下
- 扶養している配偶者または扶養親族がいる:35万円×(控除対象者の数+1)+21万円以下
例えば、扶養家族のいない人がパートで年間100万円を稼いだとします。100万円から給与所得控除の65万円が差し引かれるので、所得は35万円になり、住民税は非課税となります。
つまり、年間の給与の合計が100万円以下であると、住民税は非課税になるということです。年収100万円が『個人住民税の壁』と言われ、夫の扶養に入っている主婦などが年収100万円を超えないように働くケースが多いのは、このためです。
年金の受給年齢が近づくと、税金や保険料がどのくらいかかるのかが気になります。老後の人生設計をするにあたって、年金の手取り額を具体的に知ること...
住民税非課税世帯とは
『住民税非課税世帯』とは、世帯全員が住民税非課税の対象者であることを指しており、つまり低所得世帯が該当します。
世帯全員、均等割が非課税
住民税の所得割が非課税でも、均等割が課税された場合は、住民税非課税世帯には該当しません。均等割分が非課税になるかどうかは、以下の計算式で求められます。
所得金額 ≦(28万円〜35万円)×(本人と控除対象の家族人数を合わせた人数)+(16.8万円〜21万円)
非課税限度額とは
各自治体により均等割の『非課税限度額』があります。これは、地域により最低限の生活水準が異なり、生活保護の基準額も違う為に生じる金額差です。
東京23区と指定都市は1級地、県庁所在地と一部市町は2級地、一般市と町村は3級地と分けられていて、これに応じて非課税限度額に差が生じます。
非課税世帯のメリット
住民税非課税世帯には、様々な優遇措置が用意されています。例えば、国民健康保険や介護保険、高額医療費制度などの個人負担額が、所得に応じて減額されます。自治体によっては、がん検診料金免除、予防接種無料、保育料の減額などの措置もとられます。
また、平成26年に行われた消費税増税に伴う低所得者層への影響の救済措置として、『臨時福祉給付金の支給』があり、対象者1人あたり15,000円が支給されました。
退職金は老後生活を支える大切な資金です。退職金を楽しみに頑張っている人も多いですが、退職金にも税金がかかります。受け取り方法によって優遇され...
住民税非課税世帯の所得について
では、住民税非課税世帯の所得は一体いくらくらいなのでしょうか。非課税になる対象は一定額以下の所得となりますが、家族構成や、住んでいる自治体によっても金額に差があります。
給与所得者の目安
住民税非課税世帯の所得水準の目安は以下のようになります。
家族構成 | 年収目安 |
単身世帯 | 100万円以下 |
夫婦(配偶者を扶養している場合) | 156万円以下 |
夫婦と子供1人(配偶者と子供を扶養している場合) |
205.7万円以下 |
夫婦と子供2人(配偶者と子供を扶養している場合) | 255.7万円以下 |
扶養のありなしで基準は違う
『住民税非課税世帯』の対象になるかどうかは、扶養する家族の人数によって大きく変わってきます。
扶養する家族がいない場合は年間収入額が100万円以下で住民税非課税となるのに対し、扶養する家族が3人いる場合は年間収入額が255.7万円以下でも住民税非課税の対象となるのです。
公的年金受給者の目安
『公的年金受給者』の場合の住民税非課税世帯の所得水準は異なります。
家族構成 | 年収目安 |
65歳以上の単身世帯 | 155万円 |
65歳未満の単身世帯 | 105万円 |
65歳以上の夫婦(配偶者を扶養している場合) | 211万円 |
65歳未満の夫婦(配偶者を扶養している場合) | 171.3万円 |
確定申告なしでも住民税の申告が必要な場合
『確定申告』とは、1月1日〜12月31日までの1年間に得た所得から、個人の納税額を算出し、確定する手続きのことで、この申告により自動的に住民税の申告もされることになります。
個人事業主やフリーランス、また年収が2,000万円以上の人や副業所得が20万円以上の人などは確定申告が必要です。
また、会社勤めの人やアルバイト・パート従業員の場合は、会社側が年度末に『年末調整』を行い従業員の税金の確定を行うため、基本的に個人では確定申告をする必要はなく、住民税の申告もいりません。
ただし、次の条件に当てはまる人は『住民税の申告』が必要な為、注意してください。
給与所得以外の所得がある人
『給与所得以外の所得』がある人は、住民税の申告が必要です。給与所得以外の所得とは、所得税法上の『儲けを得る所得』のことを差し、配当所得や不動産所得、雑所得などの区分に属するものを言います。
例えば『配当所得』は株の配当金や投資信託の収益分配金、『不動産所得』は所有物件を貸すことでの家賃収入、『雑所得』はインターネットオークションで得た販売利益や、FXの利益などが対象となります。
ただ単に『副業』と言っても、何所得に当てはまるのかにより申告区分が異なります。副収入がある人は、所得区分を確認しておきましょう。
非課税証明書が必要な人
『課税・非課税証明書』とは、1月1日〜12月31日までの1年間の所得に応じて算出される『市・県民税の税額』を照明するもので、『所得証明書』と言われる場合もあります。
市営住宅入居時の資格審査をする際などに必要となる書類で、住民税の申告も含まれます。
年金以外に所得のある人
年金受給者で、年金受給額が年間400万円以下で、年金以外の所得金額が20万円以下の人は、『確定申告不要制度』というものが適用される為、確定申告が不要です。
しかし、確定申告の不要の規定は、所得税に関する申告の規定であって、住民税には適用されない為、住民税の申告が必要になります。
公的年金は多くの人にとって老後の大切な収入のひとつですが、そこでは所得税との関係が時折問題になってきます。はたして、公的年金に所得税はかかる...
非課税対象の各種控除を受ける人
住民税が非課税対象者の人で、国民健康保険や介護保険、国民年金などの控除を受ける人や、児童手当や就学援助などの受給対象者は、保険料の計算をする際に所得の情報が必要になるので、住民税の申告が必要になります。
まとめ
様々な事情から住民税非課税の対象になった人の為に、様々な金銭的負担を軽減するための支援がされています。ただし、支援を受ける為には、自分で申請手続きを行うことが必要です。
何らかの理由で前年中の収入が著しく少ない場合は、早めに対処をしましょう。非課税申請がない場合は、5月頃に納付書が届き、住民税が支払いの義務が発生します。
住民税の計算方法や非課税対象を判断するプロセスが難しく見えますが、お住まいの役所や税理士などに相談することも可能です。国が儲けている優遇措置を有効的に利用しましょう。