『直葬』は、2000年前後から利用され始めた葬儀の形式です。都市部を中心に利用する人が増え続け、今や関東圏の葬儀のうち5件に1件が直葬を行っています。直葬と一般葬との違いをはじめ、知っておきたい注意点やマナーなどを解説します。
直葬の意味と注意点
一般葬に比べて、大幅に予算が安く済むことで知られる『直葬』は、シンプルな流れが特徴です。費用が安くて簡単になるならと安易に『直葬』を選択するのではなく、まずは直葬の意味や注意点をしっかり理解することが大切です。
直葬とは通夜や告別式を行わない葬儀形式
一般葬の流れが『お通夜→葬儀・告別式→火葬』という流れであるのに対して、『直葬』はお通夜や葬儀・告別式などの宗教的儀式を行わず、『火葬のみ』を行う葬儀の形式のことを言います。
『葬』という字は入っているものの、祭壇はなく、お経もあげる場合とあげない場合があります。会葬者も呼ばないので、一般的な葬儀における儀式的な特徴が薄くなっています。遺体を安置してから火葬する(お骨にする)のが直葬です。
実際に行われている割合は?
少し古いデータになりますが、2013年NHKが関東地方を対象に行った調査では、22%が直葬を行っているという結果が出ています。
そして2017年の時点では、葬儀全体の20%程度が『直葬』を選択しており、特に関東・近畿エリアで多く行われています。東京や大阪などの主要都市部になるとその割合はさらに高くなり、25%ほどになります。
費用は抑えられるがデメリットや注意した方がいいことも
直葬のメリットは何といっても費用が安く済むことですが、次のようなデメリットや注意点もあります。
- 故人とのお別れの時間がしっかり取れない
- 葬儀をすればよかったと後悔する場合がある
- 事前に説明していないと親族、友人や知人から反感を買うことがある
- 香典が少なくなる
- あとから弔問客が不定期に訪れることがある
- 菩提寺に反対されることがある
家族だけの判断で直葬を決めた場合、亡くなったことを早めに故人の関係者に伝え、直葬にすることになった旨をきちんと伝えることによって、周囲からの反感は買わずに済む可能性があります。
しかし直葬に抵抗のある親族や友人、知人からすると、反感とまではいかなくとも「葬儀で故人の顔をきちんと見てお別れがしたかった」という気持ちになることも多いようです。
直葬の値段
直葬にかかる費用は葬儀社によって異なります。そして、直葬であっても宗教的な儀式をプラスすることで、価格は大きく変動します。
僧侶を呼ばない場合は10万円から20万円
直葬は、僧侶を読んでお経をあげてもらうかどうかによって、かかる費用が大きく変わってきます。
火葬場の料金が平均的な地域では、僧侶を呼ばない場合にかかる費用は10万円から20万円が相場で、費用の内訳は次の通りです。
- 病院から安置所まで、安置所から火葬場までの搬送代
- 安置施設の使用料
- 遺体の腐敗を防ぐドライアイス代
- 棺、骨壺、花束代
- 火葬料金
- スタッフの人件費
- 火葬手続きの代行料
僧侶を呼ぶ際、お布施の相場は?
直葬では、安置施設で故人の好きな音楽を流したり、遺族がお経を読み上げたり、お経のテープを流したりする場合もありますが、やはり本格的な読経で故人を送りたいという考えの方も少なくありません。
読経を行ってもらう場合には僧侶を呼びますが、その際に『お布施』が発生します。お布施の相場は10万円程度となるため、直葬の費用と合計すると約30万円になります。
現在は直葬が定着し件数も増えているため、低価格で読経してくれる『派遣型』のお坊さんもおり、費用はグンと安く5.5万円ほどになります。
直葬の場合の戒名
直葬でも戒名が必要になる場合がありますが、戒名を付けてもらうには僧侶を呼ぶ必要があります。戒名の意味や料金などを見ていきましょう。
戒名は必要?
戒名とは、仏弟子になった人に付けられる名前のことで、本来は仏教を勉強した証として生前に授与されているものでした。現在では仏式の葬儀においては『故人をたたえ、仏弟子として浄土に往生するために』亡くなってから戒名を付けることが一般的になっています。
宗教的儀式を基本的に行わない直葬の場合には、戒名は必要ないと思われがちですが、人によっては必要になることがあります。それは戒名が『納骨』と深いかかわりがあるからです。
納骨する寺院墓地によって戒名は必要
遺体を火葬したあとに待っている『納骨』という手続きですが、納骨する場所が檀家としてお世話になっている菩提寺の場合、『お墓に入れてもらうために戒名が必要』になります。
菩提寺に直葬にすることの了解を得た上でお経をあげてもらい、納骨のために戒名をつけてもらわなければなりません。戒名を付けてもらったのちに四十九日法要を行う場合もあります。
ただし、僧侶や菩提寺によっては『直葬』に反対の意見を持っている場合も少なくないため、思わぬトラブルにつながる可能性もあります。あらかじめ相談してから決めましょう。
戒名を必要としない場合
宗教的要素が関わっていない場合は戒名を付けてもらう必要はありません。主に下記のような場合です。
- 宗教や宗派に関係のない霊園にあるお墓に入る場合
- お墓を購入せず、遺骨を骨壺などに入れて自宅で保管する場合
- 散骨や自然葬などを選択する場合
戒名にかかる費用は様々
直葬で僧侶を呼んで戒名を付けてもらうためには、別途15万円から30万円程度のお布施が必要になります。
また、戒名自体にかかる費用は、宗派によって異なります。さらに、戒名にはランクがあり、位が上になるほど戒名料も高くなる傾向があります。一般的な相場にも大きな幅があり、2万円から200万円程度となっています。
菩提寺によっても違うので、あらかじめどのくらいのランクのものがあるのかを確認してから戒名を付けてもらうようにしましょう。
直葬の場合の納骨
火葬がメインとなる直葬の締めくくりは納骨です。直葬での納骨の流れを紹介します。
直葬の納骨方法は一般葬と変わらない
直葬をした場合でも、火葬後の遺骨を納骨する流れは一般葬と変わりありません。しかし、近年は必ずしもお墓に遺骨を納める人ばかりではなくなってきています。
お墓を購入する必要がない散骨
以前は人が亡くなるとお墓に入るのは当たり前のことでしたが、現在はお墓を購入しない選択をする人も珍しくありません。
- 自宅で骨壺などに遺骨を入れて保管
- 他人の遺骨と一緒に収める『合同墓』に入れる
- 納骨堂に遺骨を収納してもらう
上記のような方法が良く知られていますが、これらはどれも遺骨を『保管』している状態なので、いずれお墓を購入するケースも考えられます。
まったくお墓を持たない方法としては、自然葬と呼ばれる『散骨』があります。合同墓や納骨堂のように管理の必要もないため、近年は散骨を選ぶ人が増えています。
散骨の方法とその費用
散骨とは、粉末状になるまで砕いた骨を海や山に撒くことです。許可を得た専門業者が行います。海に故人の粉骨を撒く『海洋散骨』の種類と料金は次の通りです。
- 個別散骨:遺族のみで船をチャーターして散骨。料金は20~30万円。
- 合同散骨:複数の家族と同じ船をチャーター。料金は10万円前後。人数や日程に制限があり。
- 委託散骨:業者が代理で散骨。料金は5万円程度。後で散骨証明書や証拠写真をもらえる。
『樹木葬』は霊園の敷地や自然の山や木、草木の下に埋葬します。
- 都市型・公園型:目印になる樹木の下に遺骨を埋葬
- ガーデニング型:霊園や納骨堂内の植物に囲まれた場所に埋葬
- 里山型:都市部を離れた山林などに埋葬
樹木葬の料金は50万円前後になります。墓石を購入すると200万円位はかかるので、散骨はかなり安くなることがわかるでしょう。
直葬のマナー
直葬は一般葬と違い、通夜・葬儀・参列者への挨拶や接待などがいらないため、とてもシンプルで気負わずに行えるイメージがあります。
しかし、最大のマナーは親族や故人の関係者に「一般の葬儀ではなく、直葬にする」ということを忘れずにきちんと伝えることです。
香典は喪主の判断による
直葬でも、一般的葬と同じように、参列者は香典をお渡しします。香典を受け取る側は、香典と引き換えにあらかじめ用意しておいた『即日返し』をするのが一般的です。
即日返しができない場合や高額な香典を受け取った場合は、四十九日にあわせて個別に香典返しを送ります。
また、喪主の判断により『香典は遠慮してほしい』ということがあります。その場合、参列者は無理に香典を渡してはいけないというのがマナーです。
香典がいらない旨を相手に伝え漏れてしまった場合は、改めて香典はいらないことを伝え、内容に誤りがあったことを詫びつつ、お断りをします。
人によって香典を受け取ったり受け取らなかったりすると、後々トラブルの原因になるので注意が必要です。
直葬でも服装のマナーをわきまえて
直葬は少人数で行われることが多く、受付で記名をしたり、祭壇に手を合わせたりするような場面もないため、あまり多くの人目にはふれません。
そのため服装は自由なのではないかと考える人もいるかもしれませんが、直葬は『葬儀』であり、故人との大切なお別れということに変わりはありません。
必ずしも喪服である必要はありませんが、華美な服装はNGです。黒っぽい地味な服を選びましょう。
また火葬場へ行くときには、故人への哀悼の意や弔いの気持ちをきちんと表す意味で、『喪服もしくは黒いスーツで身だしなみを整えていく』ようにするのがマナーです。
まとめ
直葬は、もっともシンプルな葬儀のスタイルとして広がりつつありますが、地域や年代、故人への思い入れによっては、親族や友人、知人から反発が起こる可能性があります。
お墓を管理する菩提寺からは、納骨を断られてしまう恐れもあります。料金面などのメリットだけで即決するのではなく、故人の遺志を始め身内の考えを無視することなく、円満に葬儀を執り行えるようなスタイルを選びましょう。